11月12日〜13日、日本パラ水泳選手権大会(WPS公認)が長野運動公園総合運動場総合市民プール、通称 「アクアウィング」で開催され、地区大会、通信記録会で標準記録をクリアした障害(身体、知的、聴覚)のある346名がエントリーした。
5つの日本記録が更新、2022年度優秀選手が表彰された
昨年の東京パラリンピック後も新型コロナウイルス感染症の影響が残るこの1年は大会数が少なかったなかで、若手選手たちがマデイラ(ポルトガル)での世界選手権を経て、強化合宿、9月のジャパンパラリンピックと継続した成長を見せた。今大会では由井真緒里(上武大学)が2つの日本記録を更新するなど、5つの日本記録が樹立された。
由井真緒里が成田真由美の日本記録を更新
由井は、200m個人メドレー(S5)、200m自由形(S5)で2つの日本記録を更新。2日目の200m自由形では先輩の成田真由美の記録を塗り替えることになった。試合の前後だけでなくプライベートや遠征で成田と交わすやりとりに育まれた由井にとって「母を超える」ような一歩となった。
「スタミナはついてきたと思います。このレースでは、サードラップ(100〜150m)でいかに(スピードを)落とさないかを練習の段階から意識して泳ぎ、なんとか47秒台におさえることができました。3分10秒台を目指していましたが3分8秒台で驚いています」と泳ぎを振り返る由井。世界選手権後の合宿でメンタルを調整する機会があり、知らないうちに受けていたプレッシャーから解かれたと合宿の成果を口にしていた。
南井瑛翔が50mバタフライでアジア記録樹立
同じく8月にマデイラ世界選手権に出場し、9月のジャパンパラでも好調の南井瑛翔(近畿大学)は、今大会50mバタフライ(S10)でアジア記録、大会記録を更新した(自己ベスト=日本記録を7月の横浜でのインクルーシブ水泳大会で更新しているが、同大会がWPS公認ではなかったためアジア記録の申請がなかった)。
「ベストではなかったが良いタイムでアジア記録を更新できてよかった。疲れた状態でどこまでやれるかを確認しました。9月(のジャパンパラで)は後半に体がうごきましたが、今回は疲れがでました。体力はついていますが、レースで活かせなかった。タイミングは意識できるのですが、疲れで飛んでしまうことがあります。もっと意識づけの必要があります」と振り返った。
窪田幸太と荻原虎太郎、S8対決のゆくえは
S8クラスで競い合う荻原虎太郎(セントラルスポーツ)と窪田幸太(NTTファイナンス)は、100m背泳ぎの新たな泳法での新記録はなかったが、荻原が公式戦初の200m自由形(S8)で日本新記録を樹立した。
「(200m自由形は)400m自由形の強化の一環でした。来月オーストラリアのレースでも200mを泳ごうかなと思っています。100m背泳ぎは海外戦に出場せず当分強化のみとしようかと思います。海外選手に真似されちゃうといけないので・・」と、背泳ぎにバタフライのキックのうごきを入れた新泳法が海外に流出しないかと心配していた。
木村敬一と富田宇宙の全盲100mバタフライ対決
東京パラで日本のファンを湧かせたライバル対決、100mバタフライ(S11)は、東京パラ以来の競り合いが見られた。今回は富田宇宙(EYジャパン)が木村敬一(東京ガス)を制し優勝した。
「前半はこれまでのベストラップでした。以前より少ないストローク数で泳いでいます。(後半への)ターンのあと下の方にはいってしまい抵抗があってロスして浮き上がりのスピードののりがいまいちだったかなと。後半はストローク数が増えてしまった。練習が必要な課題です」と富田は泳ぎを振り返った。
今大会が国内では最後の公式レースとなったが、国外では12月、強化指定選手のうち12名がオーストラリアで行われるクイーンズランド選手権に参加する予定で、つぎの大きな節目になる大会は3月、静岡での代表選考会である。
上垣匠日本代表監督は「東京パラリンピックまではマンツーマンの練習を重視してきました。いま日本の社会でパラ水泳の選手がステップアップしていくには、日常トレーニングは個別練習も必要だが、集団トレーニングが大事です。どちらかに偏らないことが大事だと見直されている」と話していた。これからパリパラリンピックへの派遣標準記録が発表されれば、具体的な強化方針なども検討できるとのことである(パリへの派遣標準はまだ発表がない)。
高橋オリバー氏の挑戦 〜ビジネス目線とアスリート目線、両面から〜
今大会では、S11(=全盲)クラスに新たな挑戦者が現れた。高橋オリバー(東京都・個人)である。高橋は、国際サッカー連盟(FIFA)からスポーツビジネスのキャリアをスタート。ナイキ、コカ・コーラなどスポーツマーケティング分野の達人である。
2019年に交通事故で突然失明、現在スポーツコンサルタントとして自身を再構築しようとしている。
1年前、パラスポーツ・アスリートを理解したいと、4歳から始めた水泳に30年のブランクを経て復帰、マスターズ出場を含め今大会で3レースの出場となった。
「試合なれせず緊張した状況の中で泳いだ。自分もパラリンピックを目指し(これまでのキャリアに)アスリートとしての目線も加わると、パラスポーツの環境を変えるための方向性が見えてくると思います。環境を理解したいと思っているところです」と現在の思いを語ってくれた。
アスリートとして、ビジネスマンとしての高橋氏の挑戦に注目したい。
(写真提供・日本パラ水泳連盟)