関連カテゴリ: サッカー, ブラインドスポーツ, ロービジョンフットサル, 国内大会, 夏季競技, 東京, 観戦レポート — 公開: 2024年1月8日 at 10:38 PM — 更新: 2024年1月14日 at 11:08 AM

ロービジョンフットサル日本選手権、優勝はCLUB VALER TOKYO

知り・知らせるポイントを100文字で

見えにくい、弱視のプレーヤーによるフットサル、ロービジョンフットサル日本選手権が開催され、新たに立ち上げられた「デウソン神戸ロービジョンフットサル」を含む5チームが参加、「CLUB VALER TOKYO」が優勝を果たした。

1月6日(土)東京都墨田区総合体育館で「第18回ロービジョンフットサル日本選手権」が開催された。大会には5チームが参加、決勝はCLUB VALER TOKYOとFC SFIDAつくばとの対戦となり、5対1と勝利したCLUB VALER TOKYOが3度目の優勝を果たした。

大会に出場した選手、スタッフ  写真・地主光太郎

ロービジョンフットサルは、見えにくい、弱視のプレーヤーによるフットサルだ。
アイマスクを付け、完全に見えない状態でプレーするB1クラスのブラインドサッカーの観客席からは「見えてないのに凄い!」という感嘆の声が上がるが、B2B3クラスの選手たちがプレーするロービジョンフットサルは一見するととても地味だ。晴眼者のフットサルとなんら変わりがないようにも見える。というより「少し下手なフットサル」といったほうがよいかもしれない。

だが、各選手の「見え方」を知れば知るほど、見る要素てんこ盛りの競技でもある。
優勝したCLUB VALER TOKYOの山口健夫監督が「ロービジョンの人は見え方がまちまち、100人いたら100の見え方」と言うように、選手たちの見え方は様々だ。
視野狭窄の選手はボールや相手選手を視界に収めるため、盛んに首を振らなくてはならない。逆に視野の中心が白く濁っている選手は顔を上下あるいは左右にずらし、見るべきものを周辺視野に収める。しかしその周辺視野にも白い靄がかかっている。全体がぼやけて見える選手たちもいる。病気は同じでも見え方の度合いも様々だ。

レーベル症 竹内雄亮(CA SOLUA葛飾)の見え方  写真・選手提供

選手たちはボールやマークすべき選手を見失う、見失いそうになることもある。そういった時は晴眼者のGKゴレイロや監督が「声」でサポートする。
準優勝したFC SFIDAつくば監督兼GKゴレイロの松井康は「『マークする選手ここにいるよ』という指示も大事。この選手はこういった情報がほしいかとある程度予測しながら、視覚障害の程度が強い選手にはより丁寧に情報を与えるよう意識して声かけしている」と語る。
そういった選手たちが、残された「見る力」を最大限活かし、互いの見え方を補完し合いながら、晴眼者のゴレイロや監督の力も借りて、ゴールを目指すのがロービジョンフットサルだ。

見えやすいように白と青のテープで2重に縁どられたフットサルのコートで、まずは予選の計5試合が行われた。各チームが2試合ずつを戦い1位と2位のチームが決勝に進出する。いささか変則的なレギュレーションで、組み合わせの妙も感じられた。

第1試合 CLUB VALER TOKYO 対 Grande Tokyo

(予選は15分ハーフ、一部時間帯を除きランニングタイムで行われた)

VALER(バレル)は、昨年8月の世界選手権で躍動した日本代表選手たちが多数在籍するチーム。一方のGrandeは2021年大会以来3大会ぶりの出場で、VALERの優位が予想された。Grande唯一の代表選手角谷佳祐は「濃い時間を過ごしたメンバーとの戦い。当時一緒のチームでしたが『仲間だけど敵だから絶対勝つ』という気持ち」で試合に臨んだ。

角谷佳祐(黄色10番)と岡晃貴(左)中澤朋希(右)の球際の争い 写真・地主光太郎

開始早々、世界選手権で3得点と活躍したVALERの赤崎蛍が次々とミドルシュートを放つ。しかし先制したのはGrande。第1ピリオド4分、「代表選手が多く強いチームなのでゴールが見えたら『打つ』」つもりの角谷佳祐が放ったシュートがVALERの選手に当たってコースが変わり、ゴールに吸い込まれた。世界選手権で再々の好守を見せたゴレイロの加渡主悟も一歩も動けなかった。
その後、赤崎は強烈なシュートの雨を浴びせ続けるが、Grandeは高い集中力でゴールを許さない。そして12分、赤崎11本目(筆者の集計)のシュートがゴールネットを揺らし、1対1の同点となった。Grandeの監督兼ゴレイロの山崎裕之は「狙ってくるかと思い構えていた時にタイミングをずらされてシュートを打たれ、対応できなかった」と失点を振り返った。

シュートを放つ赤崎蛍 左は角谷佳祐  写真・地主光太郎

第2ピリオド、Grandeは角谷を中心にVALERの怒涛の攻撃を凌いでいたが、9分、VALERは岡晃貴の左サイドからの強烈なクロスをファーに詰めた中澤朋希が押しこんで2-1と逆転。日本代表のコンビでゴールを奪った。
試合はそのまま終了、CLUB VALER TOKYOが勝ち点3を手にした。

 

第2試合 FC SFIDAつくば 対 デウソン神戸ロービジョンフットサル

FC SFIDAつくばは、視覚障害者と聴覚障害者のための大学である筑波技術大学の学生とOBで構成されたチーム。監督兼ゴレイロの松井康は同大学の教員でもある。
一方のデウソン神戸ロービジョンフットサルは初出場。現在中学3年の沖平大志が、2022年Fリーグ(日本フットサルリーグ)デウソン神戸の松本光平のプレーを観たことをきっかけに生まれたチームだ。

シュートを放つ沖平大志 写真・地主光太郎

プロサッカー選手としてクラブワールドカップにも出場経験のある松本光平は2020年ケガにより視覚障害者となり、昨年のロービジョンフットサル日本選手権ではCA SOLUA葛飾の選手として出場し優勝しMVPも受賞。Fリーグ2022-23シーズン当時はデウソン神戸に在籍していた。

レーベル症を発症した沖平大志は、目が悪くともFリーグで活躍している選手がいるということを聞き、「デウソン(神戸)の試合を観に行って(松本)光平さんと話すことが出来て、そこから光平さんと交流して、デウソンにロービジョン作ってもらって参加」した。
沖平の思いを受けた松本光平やデウソン神戸の尽力で、彼がプレーできる場として、デウソン神戸ロービジョンフットサルチームが立ち上げられたのだ。兵庫で行われるチーム練習に、沖平は和歌山県那智勝浦から毎回4時間かけて通った。
三重など広範囲に選手が点在するデウソン神戸は、今回の大会で初めて全員が揃ったという。メンバー構成も沖平や坂口蒼茉の中学生から60歳のオスカル草葉まで幅広い。

第1ピリオド、神戸はつくばの攻撃をなんとか凌いでいたが、14分、「前のほうをやらせてもらっているので、取るところは取るという気持ちでいつも出ている」と語る小室智也が、左45度から左足での強烈なシュートを放ち、つくばが先制した。
つくばはその直後にも小室が2点目のゴール(オウンゴールのようにも見えた)、さらにはキャプテン松原一生のシュートを神戸のゴレイロ山本翔太がいったんは弾いたものの、川合亮太郎が押しこんだ。

この試合2得点の小室智也(10番) GKゴレイロは山本翔太  写真・地主光太郎

第2ピリオド、神戸の沖本も惜しいシュートを放ったが得点することはできず、FC SFIDAつくばが3-0で勝利、勝ち点3を得た。
大人相手に果敢に挑み、ふっとばされることもあった沖平は「みんな緊張していた。ドリブルも雑で、パスももう少し正確にやればよかった」とこの試合を振り返った。

懸命に球際で争う沖平大志(緑)と小室智也 写真・地主光太郎

第3試合 CA SOLUA葛飾 対 CLUB VALER TOKYO

日本代表選手が6名在籍する葛飾は第3試合からの登場、強豪同士の対戦となった。
VALERの山口健夫監督は「葛飾は一番意識していた。対策はキャプテン中澤が頑張った」
その中澤朋希は「葛飾とは何度もやりあっている。すごくいいチームなので選手は皆気合入れて臨んだ」という。

第1試合ではフィクソだったVALERの赤崎蛍はアラで先発。第1ピリオド4分に早くも先制ゴールを決める。10分には赤崎が左サイドでボールを奪うと、切り返して強烈な左足でのシュート、ゴレイロ細谷篤史も止めきれず追加点を奪う。
VALERはその後、「ボールもここらへんにあるんだろうなという雰囲気でやっている」泉川璃空が2ゴールを決め4-0で勝利、勝点6となり決勝進出を決めた。

ドリブルで突き進む赤崎蛍 その後ろは葛飾の古川将士監督  写真・地主光太郎

葛飾の古川将士監督はVALERの赤崎蛍を警戒し、「その対策も昨日ちゃんとやって、これはいけるという自信をもって臨みましたが。一瞬でも離すとやられました」
葛飾のキャプテン岩田朋之は「球際のところをもっと激しくいかないとやられる。相手をリスペクトし過ぎたところもある。もっとぱちんといかないと」と悔しがった。

葛飾は日本代表以外の選手たちも満遍なく出場した。もっと代表選手中心で戦い、勝ちを目指すという選択肢もあったかもしれないが「うちは育成も絡めているクラブチーム、限られた選手でいいのか、そうではない」と古川監督は言い切る。
岩田も「クラブとしてのビジョンがはっきりしている。強化と普及、地域貢献、その3つ。一人一人の可能性を信じ、全員が輝くということでやっている」と語る。

ゴールを決め喜ぶVALERの泉川璃空  写真・鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会 

第4試合 Grande Tokyo 対 FC SFIDAつくば

既に1勝している SFIDAつくばは引き分け以上で決勝進出が決まる。一方のGrandeは勝利が絶対条件となる。
第1ピリオド7分、つくばは左サイドからの小室智也のクロスに松原一生が合わせて先制。

ゴールを決め、喜ぶ松原一生 右後ろは角谷佳祐  写真・地主光太郎

2点が必要となったGrandeは、フィクソでプレーしていた角谷佳祐が第2ピリオド開始からアラに入る。「角谷がコントロールしながら、若い選手が前からプレスをかけて点を取る」という山崎監督の狙い通り、開始早々、混戦から角谷が同点ゴールを決める。
山崎監督はこの試合、GKゴレイロは中野一郎に任せてベンチ前から熱い激を飛ばす。
9分には自陣から右サイドを駆け上がった角谷がパスを受けると、角谷はファーに詰めた永島大聖へ、しかし永島のシュートは惜しくもポストを叩く。

13分、今度はつくばがFKのチャンスを得る、小室智也のシュートはいったん壁に当たるがこぼれ球を豪快に蹴り込み、つくばが2-1と突き放す。
試合はそのまま終了。つくばは2勝、勝ち点6となり決勝進出を決めた。

プレーしているかのような体勢で熱い激を飛ばす山崎監督  写真・地主光太郎

第5試合 デウソン神戸ロービジョンフットサル 対 CA SOLUA葛飾

消化試合となってしまったこの試合、葛飾は7名の選手がゴールを決めて、クラブのビジョン通り、皆が輝くゲームとなった。
キャプテン岩田朋之のゴールを皮切りに、石原秀吾がゴレイロにいったん弾かれたボールを押し込み2点。羽生健太朗も同じような形で3点。ショートカウンターから大平英一郎のパスを受けた篠瀬翔平が4点。羽生のポストプレーから大平英一郎のループシュートで5点。藤原昊世が相手ゴレイロを抜き去り6点。藤原からのパスを受けた西達也が7点。藤原昊世が再びゴールを決め8点。
8-0と葛飾が神戸を圧倒した。

ボールを追う沖平大志(緑)と岩田朋之(白)  写真・鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会

初の公式戦、0勝2敗無得点に終わったデウソン神戸ロービジョンフットサルの沖平大志は「悔しいけど楽しかった。もうちょっとやれたかな。ぶっつけ本番にしてはできたかなというところもあります」と2試合を振り返った。
横澤直樹監督は「この大会に出場できたことに感謝したい。勝利するよりもチームができたこと、関西唯一のチームとして、ロービジョンフットサルを盛り上げられるように活動していきたい」と語った。

決勝戦 CLUB VALER TOKYO 対 FC SFIDAつくば

(プレーイングタイムの10分ハーフで行われた)

VALERの先制点は、大会通算4得点の泉川璃空が「一番気持ちよかった」と振り返ったゴール。中央の赤崎から左の岡へ、岡が中に入れて泉川が決めた。
「狙っていた形、みんなの意識が統一できて決めた形だった」
札幌在住の泉川と熊本在住の赤崎はこの大会が初対面、顔を合わせてプレーするのは初めてだった。「1試合2試合目で合わせて、決勝でああいう形ができたというのはサッカーのいいところ、ボールをつないでパスするだけで相手と意思疎通ができる。自分がサッカーを好きなところ、それが体現できたゴール」だと自らの得点を振り返った。
ロービジョンフットサルでは3人が連動してゴールを決めるのは容易ではない。

シュートを放つ泉川璃空 MVPも受賞した  写真・鰐部春雄/日本ブラインドサッカー

さらに泉川は、右サイドを駆け上がりゴールに流し込んで2点目のゴール。その後も右サイド泉川からのクロスにファーに詰めた久保善暉が押しこんで3点。さらに第2ピリオド、右サイド泉川のクロスに今度は岡晃貴が合わせて4点のリードを奪う。いずれのアシストも「イメージはシュート。いてくれたらいいな」と泉川が蹴ったボールから生まれたゴールだった。

決勝で2点を決めた久保善暉   写真・中村和彦

つくばはFKのチャンスを得て小室智也がゴールを決めたものの、VALERは久保善暉のゴールでさらに追加点、CLUB VALER TOKYOが5-1と勝利し優勝を決めた。
「組織的なチームだったので崩されて失点重ねたんですけど、セットプレーで一矢報えたのでよかった。あわよくば優勝できればよかったが実力差はあった」とつくばの小室は決勝を振り返る。
松井康監督(兼ゴレイロ)は「上には上がいるんだと肌で感じるいい機会だった。準優勝という結果は、始めたての学生もいるので良いモチベーションになった。競技を長く続けてくれたら嬉しい」と語った。

優勝したVALER の山口健夫監督は「優勝は嬉しい。個人的には何もしていない。選手が頑張っただけ」「(やっているのは)彼らに気持ちよくプレーしてもらうのと、疲れた時の選手交代、みんなが見えないところの守備面の指示」と、サッカー経験のない監督は謙虚に語る。
そして「年初から大変なことが起きているなか、こういう形でフットサルがやれることがありがたい」と大会を振り返った。

MVPを受賞したのは4得点2アシストの泉川璃空。泉川は3年前の高校3年生の時に網膜剥離となり11人制のサッカーを続けられなくなった。その後youtubeでロービジョンフットサルを、SNSでVALER TOKYOを知り、広島よりチームに参加。その当時は「一番近いのが東京のチーム」だった。泉川はスポーツトレーナーの専門学校を経て、現在札幌の鍼灸師の専門学校に通っている。
泉川は裸眼の視力は0.01だが矯正視力が0.6であるため、「矯正後の診断で、視力0.1まで」という国際大会の規定には合わず、日本代表選手として国際大会に出場することはできない。卒業後は「トレーナーとして、ロービジョンフットサル日本代表のメディカルスタッフとして関わっていけたら」と考えている。
尚、ロービジョンフットサルの国内大会への出場条件は、視覚障害の身体障害者手帳を有していることであり、国際大会のクラス分けより門戸を広めている。

今回の大会には5チームが参加したが、4チーム以上の参加は2018年大会以来、5チームは2015年大会以来となる。もっとも多くのチームが参加したのは2009年大会の7チームだが、チームを存続していくのもなかなか難しいようだ。
そういった意味では、新たに立ち上げられたデウソン神戸ロービジョンフットサルはとても貴重な存在だ。

昨年の世界選手権では日本代表が4位に躍進。だからこそメダルに届かなかった悔しさを日本に持ち帰り、次回大会でのメダル獲得が期待されるが、底辺の拡大、ロービジョンフットサルの普及は、代表の強化に負けず劣らず重要課題である。

優勝したCLUB VALER TOKYOの選手たち 写真・鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会

<参考>
ロービジョンフットサルの特徴や日本代表選手の見え方等は、以下の記事を参照
https://www.paraphoto.org/?p=36888

(写真協力・鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会、竹内雄亮(CA SOLUA葛飾) 校正・地主光太郎、佐々木延江)

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