「パリからの風」を感じて!──2025ワールドトライアスロン・パラシリーズ横浜みどころ

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2025ワールドトライアスロンパラシリーズ横浜大会に先駆けて行われた記者会見は、今年初めて横浜市役所アトリウムという開かれた空間で市民に公開された。パリパラリンピックの記憶と開かれたスポーツへの未来を強く感じさせる時間となった。

2025年5月17日、世界の精鋭パラトライアスリートたちが、再び横浜に集結する。パリパラリンピックの激戦から8カ月、その興奮を携えて横浜山下公園は、再起を誓う選手、そして揺るぎない強さで王者の座に君臨するトップアスリートが集い、それぞれの熱いストーリーが交錯する舞台となる。

はじめて横浜市役所アトリウムで開催された横浜トライアスロンの記者会見。山中竹春市長も出席しエールを送った。 写真・秋冨哲生

記憶に刻まれたパリの舞台

昨年のパリでは、セーヌ川沿いの象徴的な舞台がコースとなり、数々の感動的なドラマが繰り広げられていた。地元フランスの観衆を熱狂の渦に巻き込んだPTS4の王者アレクシ・アンカンカン(FRA)、そして横浜でのレースは5度目となる女子PTWC(車いす)のオーストラリアのローレン・パーカーはパリでついに金メダルを手にした。

パリの朝。昨年のパリパラリンピック、トライアスロンの行われたアレクサンドル3世橋 写真・中村 Manto 真人

男子PTWCクラスで前人未到のパラリンピック3連覇を成し遂げたオランダのイェッツェ・プラットの卓越したパフォーマンスは、競技にこだわる不屈の精神と未来への強い意志を鮮やかに示した。今回オランダのPTWCは同郷のライバル、へールト・スキッパーが出場する。日本でもお馴染みになりつつあるスキッパーは、子ども達にも人気がある選手だ。

日本勢もパリの舞台で確かな足跡を残した。木村潤平(PTWC)が8位入賞、秦由加子(PTS2)が9位と、それぞれが持てる力を最大限に発揮し奮闘を見せた。

パーカー、タランテッロ──女王たちの再来、新世代の息吹

今回の横浜大会で特に注目すべき点は、パリ大会で頂点に立った金メダリストたちが再び集結することである。
女子PTWCには、パリ大会の覇者であるローレン・パーカー(AUS)がエントリー。

5月15日、記者会見に参加したローレン・パーカー(AUS)はパリパラリンピックで金メダルを獲得した 写真・秋冨哲生
昨年(2024年)パリ直前の横浜大会で、女子PTWCの表彰式。1位:ローレン・パーカー(AUS)、2位:リアン・テイラー(CAN)、 3位:ジェシカ・フェレイラ(BRA) 写真・山下元気

「東京パラリンピックでの悔しさをパリで塗り替え、金メダルを獲得できた。5回目になる横浜のレースは、(同クラスの選手の参加がないため)一人で走ることになりますが、自分の走りに集中したいと思います」

今年は一人だが、圧巻の走りに熱い視線が注がれるだろう。

また、女子PTVIには、昨年の横浜大会で女王スザナ・ロドリゲスを下したイタリアのフランチェスカ・タランテッロが再びその姿を見せる。ロドリゲスはパリでパラリンピック2連覇という偉業を達成したが今回の出場はない。いつか再びこの横浜の地で女王同士の激しい戦いが見られるだろう。

ダニエルの挑戦はロサンゼルスを見据える

ステファン・ダニエル(CAN)はパリで悔し思いをしたが、ロサンゼルスを目指し再スタートした 写真・秋冨哲生
昨年(2024)の横浜大会でクリス・ハマー(USA)と並走するステファン・ダニエル 写真・山下元気

男子では、母国フランスで圧倒的な強さを見せつけたアレクシ・アンカンカン(FRA)が帰ってくる。連勝記録をどこまで伸ばすことができるのか、そのパフォーマンスが大きな注目を集めることだろう。

2023年大会で、スタート前、ポンツーンへ向かうアレクシ・アンカンカン(PTS4・フランス) 写真・秋冨哲生

日本勢の展望──復帰と挑戦のシーズン

パリパラリンピックを経た横浜大会は、日本選手にとって、新たな挑戦への重要な舞台となる。
木村潤平(PTWC)は、パリで痛感した自身の限界を感じつつも、再びレースの場へと戻ってきた。

記者会見でパリでの率直な思いを語ってくれた木村潤平(Challenge Active Foundation/東京) 写真・秋冨哲生

「やめようと思ったこともあった」と率直に語る木村は、今大会を通して自身の成長と新たな可能性を試そうとしている。強い眼差しで、これまで支えてくれた仲間たちの声援に応える木村の奥深くに「あの場所へ戻りたい」という思いが潜んでいるように見えた。

谷真海(PTS4)はレース復帰2年だが世界のレベルの高まりを感じていた 写真・秋冨哲生

記者会見に出席した東京パラリンピックの立役者・谷真海(PTS4・サントリー)は、「レースを通して、自分自身の成長をしっかりと確認したい」と力強い情熱を語る。出産と競技生活の両立を経験し、レース復帰後2年目となった。「バイクの強化に重点的に取り組んできた」と語る谷もまたホーム横浜のアドバンテージを活かし、粘り強いレースを展開することが期待されている。

横浜パラトライアスロンの華といえるPTS2(大腿義足)は、ベテランの秦由加子(キャノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・ブリジストン/千葉)が怪我からの復帰後出場した3度目のパラリンピック・パリ大会で9位。今大会はライバルのアヌ・フランシス(AUS)との対戦がみどころとなる。
そして、秦を追って保田明日美(PTS2・三重県トライアスロン協会)が今大会パラエリート初出場を果たす。

宇田秀生(PTS4・NTT東日本・NTT西日本/滋賀)、佐藤圭一(PTS5・愛知県トライアスロン協会)を含めパリパラリンピックに出場したすべての選手たちが、次なる目標へ思いを馳せている。今回の横浜大会は、そんな彼らとそれを追いかける選手にとって新たな一歩を踏み出す「再始動」のレースとなる。

開かれたパラトライアスロンへ!

横浜トライアスロンの記者会見が初めて横浜市役所アトリウムという公共の場で行われたことは、特筆すべき変化だ。昨年パリ大会のコンセプト「市民に開かれたオリンピック・パラリンピック」で、パリ市が成功を収めた影響があるようだ。トライアスロン、パラトライアスロンをより多くの人々に「開かれた文化」として根付かせたいという競技団体の動きが、横浜にも広がっていることが示された。

記者会見の会場は、ローレン・パーカー、ステファン・ダニエルら世界トップアスリートとともに、木村・谷が、パリ、東京での経験や今後の挑戦について率直な言葉で語った。会場にはパラトライアスリートの競技への真剣な緊張感が漂い、参加し質問した筆者もエールを送る気持ちが高まった。

オリンピアン、パラリンピアンの記念写真 写真・秋冨哲生

木村が「雨の予報が少し心配だ」と語る一方で、子どもたちを対象とした応援企画があることや、熱い期待の声が話題となった。パラトライアスロンの記者会見のあと、オリンピッククラスの選手とともにフォトセッション、オリンピック・アスリートの記者会見やトークショーも行われた。

記者会見は大会広報の場という枠を超え、アスリートと市民社会を繋ぎ、互いに理解を深めるための対話の場として重要な役割を果たしたと言えるだろう。

未来へ──LA28への道が始まる

パリから次なる舞台ロサンゼルスへ。2028年大会を見据えるパラアスリートにとって、この横浜大会は、つねに未来へつながる大事な中継地点となる。多様な背景を持つ選手たちが織りなすパラトライアスロンの尽きない魅力が、いま再び横浜の地で力強く輝きを放とうとしていた。

横浜市役所アトリウムでのパラトライアスロンの記者会見の様子 写真・秋冨哲生

(写真・秋冨哲生、校正・そうとめよしえ)

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