雨の横浜で熱戦が閉幕。パリからの帰還。そしてLAへ再スタートを切るパラトライアスリートたち

知り・知らせるポイントを100文字で

パリ2024パラリンピックから8か月、横浜に集結した世界のパラトライアスリートたちが熱戦を繰り広げた。ベテラン勢と新世代の台頭が交差する中「パラを強化したい」と話す福井英郎ヘッドコーチのもと新体制を迎えた日本勢も各クラスで表彰台に立ち、ロサンゼルス2028・ブリスベン2032へ向けた再スタートを印象づけた。

雨のエイドステーション、雨具を着てサポートするスタッフのなかを走るフランスのグラディース・ルムシゥ(PTS5)はパリジェンヌ 写真・秋冨哲生

2025年5月17日、ワールドトライアスロン・パラシリーズ横浜が開催され、早朝の山下公園は、降りしきる雨のなか、エリートクラスのレースで幕を開けた。
2024年のパリパラリンピック(以下パリ大会)から約8か月。各国のメダリスト、若手選手が入り混じる今大会は、ロサンゼルス2028に向けた、多くの選手にとって再スタートの場となった。

レースを彩ったドラマとリスク

雨の日のバイクパートでPTS5カテゴリーもとっとも速かった(0:31:12)25歳のベンツェ・モチァリ(HUN)は4位だったが将来を感じる若手アスリート 写真・秋冨哲生

気温20度、雨のなかでのバイクパートでは、ディスクホイールの轟音を響かせながら選手たちが走り抜けていく。その迫力は圧巻だが、危険も伴う。地面との摩擦を減らすため、ほぼ溝のないタイヤを使うロードバイクは、雨の日の路面とは相性が悪い。実際、コーナーで転倒する選手の姿も見られた。レース後、「今日は雨だったので、バイクはいつも以上に慎重に走りました」と語る選手もいた。

女子PTS2:日本勢が2位・3位

PTS2の表彰式。1位 アヌ・フランシス(AUS)、2位 秦由加子(キヤノンマーケティングジャパン・マーズフラッグ・ブリヂストン)、3位 保田明日美(三重県トライアスロン協会) 写真・秋冨哲生

女子PTS2(上肢・下肢に重度の障害)では、日本女子の秦由加子と保田明日美が出場。秦と世界ランクで競り合うアヌ・フランシス(Anu Francis/AUS)が主導権を握り、総合1:21:20で優勝。秦はスイムでトップに立ったが、バイク・ランでわずかに及ばず総合2位、保田が3位に続いた。

男子PTS4:王者アンカンカンも健在!

昨年のパリ大会で2連覇を果たし地元市民を沸かせたアレクシ・アンカンカン(FRA)左腕に東京大会から始めたタトゥーが見える 写真・秋冨哲生

男子PTS4(上肢など中等度の障害)では、パリ大会の金メダリスト、アレクシ・アンカンカン(Alexis Hanquinquant/FRA)が圧巻のレースを展開。スイム・バイク・ランの全セクションで1位を記録し、2位のマイケル・テイラー(Michael Taylor/GBR)に2分以上の差をつけ、総合1:01:31でフィニッシュした。パリ大会銀メダリストのカーソン・クロフ(Carson Clough/USA)は3位。
フィニッシュ直後、アンカンカンは笑顔で「とても楽しいレースだった」と話し、東京大会で入れた富士山、パリ大会で入れたエッフェル塔のタトゥーも披露してくれた。

男子PTS5:1秒差の激戦

PTS5男子の表彰 1位 マルティン・シュルツ(GER)、2位 ジャック・パウエル(AUS)、3位 ステファン・ダニエル(CAN) 写真・秋冨哲生

男子PTS5(主に片手・片足の軽度障害)には12名が出場し、最も選手数の多いカテゴリーとなった。
東京・リオ金メダリストのマルティン・シュルツ(Martin Schulz/GER)が1秒差の激戦を制し優勝。2位にはジャック・ハウエル(Jack Howell/AUS)、3位にはステファン・ダニエル(Stefan Daniel/CAN)が続いた。
ダニエルは、「コーナーは滑りやすかったが、雨の中を走るのは好き。今日は良いチャレンジだった」と語った。
2024年パリ大会で5位の2000年生まれの注目選手、ベンツェ・モチァリ(Bence Mocsari/HUN)は4位に入り、「水温がちょうどよく、スイムはとても快適だった。ロサンゼルス大会では表彰台に立ちたい、そのためにこれからもベストを尽くすつもり」と力強く語った。

男子PTWC:木村潤平が3位

PTWC男子の表彰式。1位 ヘールト・スキッパー(NED)、2位 木村潤平(Challenge Active Foundation/東京)。3位 ルイ・ノエル(FRA) 写真・秋冨哲生

男子PTWC(車いす)では、オランダのベテラン、ヘールト・スキッパー(Geert Schipper/NED)が2位のルイ・ノエル(Louis Noel/FRA)に2分差をつけて優勝。
日本の木村潤平が3位に入り健闘を見せた。
一方、パリ大会出場のトーマス・フリューウィルス(Thomas Fruehwirth/AUT)は、直前に変更されたバイクパートで周回数を誤り、DSQ(失格)となった。

女子PTWC:パリから女王の帰還

女子PTWCでは、パリ大会金メダリストのローレン・パーカー(Lauren Parker/AUS)が出場。本カテゴリー唯一の出場者としてのレースだったが、「パリ後は2か月休み、1月から再始動した。調子も良く、結果にも満足している」と語った。

ローレン・パーカー(AUS)のランパート 写真・秋冨哲生

「横浜は大好き。来るのは5回目。次の目標は10月のカナダ世界選手権。できればもっと金メダルを取りたい」と、パリ大会の金メダリストはロサンゼルスへ向けた意欲をのぞかせた。

女子PTVI:イタリアのタランテッロが優勝

視覚障害クラス(PTVI)では、ガイドとの一体感が勝負を分ける。女子PTVIでは、パリ大会銀メダリスト・昨年の横浜では女王ロドリゲスを制したイタリアのエース、フランチェスカ・タランテッロ(Francesca Tarantello/ITA)が優勝。

ランパートを走るフランチェスカ・タランテッロ(ITA) 写真・秋冨哲生

「雨の中でも問題なく走れた。日本に来ることができてとても嬉しい。今年初レースで、次は6月にはターラントでの大会が控えている」と語った。
2位はパリ大会銅ダリストのアーニャ・レナー(Anja Renner/GER)、3位にマギー・サンドル(Maggie Sandles/AUS)が入った。

ロサンゼルス2028へ、それぞれの再出発

パリ大会を終えて、再調整を行い、今シーズンの初戦として本大会に臨んだ選手も多かった。それぞれが自分の「現在地」を確認し、今後の課題や意気込みを口にした。
若手がベテランに拮抗し、クラスによっては勢力図の変化も感じられ、今後のパラトライアスロン界の展開がますます楽しみになる横浜でのレースとなった。

用具に込めた工夫

パラトライアスロンの面白さの一つが、選手一人ひとりに最適化された用具の存在だ。
スイムで着用するウェットスーツには、左右で袖の長さが異なるものや、片側ノースリーブなど、様々な工夫が施されている。
バイクでは、大腿切断の選手が切断部を安定させるサポート器具を使用していたり、膝下切断選手は専用の義足でペダリングする。ラン用義足のバリエーションや、トランジションでのサポート(ハンドラー)の存在など、創意工夫が随所に見られ、観戦の楽しさにもつながっていた。レースに挑む選手の工夫も、機会があればご覧いただきたいパラトライアスロンの魅力のポイントである。

市民に開かれたトライアスロン

今大会は15周年の記念大会でもあり、市民に開かれた「トライアスロン・パラトライアスロンの街 横浜」として演出に力が込められていた。昨年は56,000人を集めたレースエリアでの「ハマトラフェス」も今年はさらに広域に開催され、観戦ガイドや観戦動線も充実していた。

5月17日、パラトライアスロンで表彰式の観客席 写真・秋冨哲生

(編集・佐々木延江 写真・秋冨哲生、山下元気、そうとめよしえ)

この記事にコメントする

記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)