
横浜トライアスロンに出場した二人の「二刀流」アスリート
パラトライアスロンの魅力は、競技の枠を超えて広がる挑戦の物語にある。今年も横浜山下公園で開催された「ワールドトライアスロン・パラシリーズ」に、アンプティサッカー日本代表としても活躍する二人が出場した。世界を目指す若き挑戦者・金子慶也(ジール/千葉)と、生涯スポーツとして挑むベテラン・新井誠治。それぞれ異なる目標を持ちながら、パラトライアスロンの舞台に立った彼らの姿は、パラスポーツの多様な可能性を体現していた。
世界の頂点に挑む若手:金子慶也、PTS4クラスで奮闘
大会1日目、オリンピック・パラリンピックに直結するエリートカテゴリーに登場したのは、アンプティサッカーで日本代表の金子慶也(ジール/千葉)。PTS4クラス(上肢など中等度の障害)には、パリ2024パラリンピックの金・銀メダリストをはじめ世界のトップ選手が集結しているのが横浜大会だ。金子はかつてないハイレベルな勝負に足を踏み入れた。

スイムで出遅れるも、バイクとランで果敢に挽回を図る姿は観る者に強い印象を残した。結果は10人中9位(1時間9分32秒)。世界との差を肌で感じた経験は金子にとって「何よりの収穫だった」という。

「高い目標ですが、ロス2028パラリンピックでのメダルを目指しています、そのための現在地を知ることができた」
金子はそう語り、再び世界の舞台での挑戦に意欲を示した。

アンプティサッカーで鍛えた爆発力とトライアスロンで培った持久力。二つの競技を行き来する中で、金子は「互いに補完し合うトレーニング効果がある」と話す。スタミナ面ではアンプティサッカー日本代表でも一番だと自負しており、今後は2026年アンプティサッカーW杯(コスタリカ)に向けた東アジア予選への出場を視野に入れている。
生涯スポーツとしての挑戦:新井誠治、エイジパラで完走
大会2日目は前日の冷たい雨があがり晴れあがった。エイジグループ(一般参加者)では、同じくアンプティサッカーチーム「FCアルボラーダ」に所属する新井誠治(TRI2=切断者等)が出場。日本選手権4連覇中の強豪チームの一員でありながら、日本代表選手たちと肩を並べようと努力を重ねるベテラン選手だ。

「記録を狙うわけではない。ただ、自分の目標に向かって練習して、うまくいかなければ見直し、うまくいけば美味しいご褒美をあげる。そうやって『自分を認めてあげられる』ことが大切だと思う」と話す新井の言葉には、人生におけるスポーツの役割の豊かさが深くにじんでいた。

大腿切断の新井はスイム・バイク・ランの3種目を2時間1分18秒で完走。スイムでは筋肉が攣りそうになりながらも泳ぎきり、ランではクラッチ(松葉杖)で太陽の下を駆け抜けた。

53歳でトライアスロンを始めたという新井は、「年齢や障害に関係なく、いつからでも挑戦できる」ことを示す象徴である。5月末に大阪で開催される「第10回アンプティサッカーレオピン杯」への出場も控えていた。「アンプティではチームで優勝、トライアスロンではフィニッシュを決めたい」と、チームスポーツと個人スポーツで目標を見据える。
異なる道を歩む二人が伝える「パラスポーツの可能性」
金子慶也は、世界の頂点を目指すクラスで限界を押し広げるトップスポーツとして、新井誠治は、自らのペースで挑み続ける生涯スポーツとして、それぞれ異なるスタンスで競技と向き合っている。共通するのは、両者ともにアンプティサッカーとトライアスロンという二つの競技を通じて「挑戦することの豊かさ」を体現している点だ。
彼らの姿は、パラスポーツの二刀流が誰にとっても開かれた「楽しめる選択肢」であることを伝えてくれる。トライアスロンだけでも3つのスポーツそれぞれの可能性もあることは言うまでもない。障害の有無によらず、子どもたち、あるいは何かを始めようとする人にとって、二人の姿は「新たな一歩へのお手本」となるだろう。
カテゴリーは違っても、挑む心はひとつ。
二人の「二刀流アスリート」のこれからの活躍に、今後も注目していきたい。
(共同執筆 佐々木延江)