公開: 2025年8月25日 at 11時34分 — 更新: 2025年9月3日 at 14時20分

第1回JPCアスリートフォーラム──誹謗中傷とアスリートの価値をめぐる新たな一歩

知り・知らせるポイントを100文字で

パラアスリートが主体となって初めて開催された「JPCアスリートフォーラム」がNTCウエストで開かれ、アスリート、弁護士、SNSモニタリング専門家、JOC委員、JPC職員らがそれぞれの立場で協議に参加した。世界の最前線で活躍する選手の役割は「競技の結果を示すことだけではない」という視点から、競技団体(NF)やアスリートを含む関係者に新たな気づきが求められている。

第1回JPCアスリートフォーラムの企画に携わった(左から)岩渕幸洋(パラ卓球)、久保大樹(パラ水泳)、網本麻里(車いすバスケットボール) 筆者撮影

2025年8月24日、日本パラリンピック委員会(JPC)はナショナルトレーニングセンターで初の「アスリートフォーラム」を開催した。アスリートフォーラムとは、アスリート自身が主体となって企画し、多様な分野の専門家や経験豊かなアスリートとの対話を通じ、参加者一人ひとりが自己理解を深め、競技横断的な繋がりや情報共有の機会を提供する会合のこと。IPCや一部の先進国ではこれまでも開催されてきたが、国内では開催例がなかった。企画を担ったのは、三阪洋行氏(アジアパラリンピック委員会(APC)アスリート委員、JPCアスリート委員長/元車いすラグビー日本代表)を中心に、網本麻里(JPCアスリート副委員長/車いすバスケットボール)、岩渕幸洋(パラ卓球)、久保大樹(パラ水泳)ら現役選手。冒頭では、6月にドイツ・ボンで開かれたIPCアスリートフォーラムの報告(網本)が行われ、「アスリートの価値」を守ることをテーマに議論が展開された。

誹謗中傷とアスリートの価値

午前のパネルでは、JOC常務理事の八木由里氏(弁護士)が誹謗中傷の法的リスクを解説し、「リツイートや『いいね』でも責任を問われ得る」と注意を促した。SNSモニタリング専門家の高森雅和氏は「法的対応だけでは限界がある。根本的には応援文化を育てることが重要」と指摘。三阪氏も「一つの競技への誹謗中傷が障害者全体への偏見に広がる」と警鐘を鳴らし、相談窓口や支援体制をもっと周知すべきだと訴えた。

「叩かれる存在」への覚悟

パラ水泳の富田宇宙は「パラリンピックに関する具体的なデータは示されていない」と指摘しつつ、「障害のある人は攻撃対象になりにくい面があるが、注目が高まれば批判も必ず増える。叩かれる存在にならないと始まらない部分もある」と語った。影響力の拡大とともに直面する現実を示す発言として共有され議論が深まった。

SNS活用とリスク管理

三阪氏は「かつては発信の機会が4年に一度のパラリンピックしかなかったが、今はSNSで常に発信できる時代」と強調。一方で「世間との見方のずれを理解し、期待せずフラットに届ける姿勢が大切」と述べた。さらに「ガイドラインはJPC一律ではなく、各競技団体が選手とともに整備すべき」と提案。網本はIPCアスリートフォーラムで受講したTikTokの講義を紹介し、「日常を伝えるのか競技を伝えるのか、発信の軸を決めることが重要」と語った。車いすカーリングの小川亜希も「批判は有名になるからこそ出てくる」と実感を共有した。

新たな出発点として

今回のフォーラムは各競技団体の強化指定選手やスタッフなどを対象に行われ、オンラインを含め約30名が参加。規模は小さかったが、誹謗中傷やキャリア形成といった課題を社会に可視化し、次へつなげる第一歩となった。誹謗中傷を完全に防ぐことはできないが、相談窓口やモニタリング、そして「応援文化」を広げる取り組みが、選手が安心して競技に集中できる環境をつくる。三阪氏は最後に「SNSの使い方を知り、いざという時に自分を守る術を理解すること。それがアスリートの価値を正しく社会に伝えることにつながる」と語った。

JPCアスリートフォーラムは始まったばかりだ。今後さらに多くの選手が参加し、互いに学び合いながら声を社会へ届けていくことが期待されている。

(校正・小泉耕平)

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