午後5時からのクロージングセレモニーでは、7日間の名場面が映像で振り返られ、会場を埋めた観客が拍手で選手たちを讃えた。

富田、400m自由形S11で銀メダル「自分の経験をフル活用した結果」
男子400m自由形S11(全盲)で富田宇宙(EY Japan)が4:37.31を記録、パリ大会に迫る好タイムで銀メダルを獲得した。レース後のミックスゾーンで「パリ後、コーチと一緒に取り組みたかった挑戦が今回はできなかった」(コーチが確保できなかった)と率直に振り返った。その一方で、「自らがこれまで培ってきた経験をフルに活用し、勝負したことが銀メダルにつながった。一番やりたかった方法ではなかったが、今の自分にできる最大限を発揮できた」と振り返った。




富田は、このレースを通じて新たな挑戦の方向性を見据えていた。1年後に日本開催となるアジアパラ競技大会をはじめ、ロスに向かう今後の戦いに向けて次の一歩を踏み出す決意をにじませていた。
山口と松田、成長を示すバタフライ

男子100mバタフライS14には金メダリスト山口尚秀(四国ガス)と松田天空(NECFS)が出場。山口は「力を振り絞って頑張った」とコメント。主戦場である平泳ぎ以外の種目でも自己ベストを更新し、成長の幅を広げた。

松田は4年ぶりに自己ベストを更新(57.22)。「フォーム修正や時間管理の改善が実を結んだ」と語り、着実な歩みを見せた。
由井真緒里

女子100m自由形S5で4位に入った由井真緒里(ZENKO)は「ベストを出せず残念」と悔しさを滲ませた。だが「100mは200mで成果を出すための一環」と位置づけ、後半での成長を実感したという。挑戦の幅を広げる中で課題と手応えを同時に得たレースだった。
齊藤元希

男子200m個人メドレーS13に出場した齊藤元希(スタイル・エッジ)は、今大会で合計11レースに出場し、3種目で日本新記録を樹立。疲労を抱えながらも「これは自分の水泳人生のスタイル」とも語り、複数種目に挑戦し続ける方向性で戦う。「好き勝手やらせてもらえることに感謝している」と笑みを浮かべるその姿は、他の選手にはない不思議な魅力を放っていた。
川渕、本当に飛び抜けたい!

男子100m平泳ぎSB8(予選)に出場した川渕大耀(NECグリーン溝の口)は、今大会最後のレースを終え「悔しい。調子は良いのにベストが出せない、難しさを感じた」と率直に語った。400m自由形では高校の大会で自己ベストを出しており、「単純に比較してしまう部分もあるが、そこで争うのではなく、本当に飛び抜けたい」と自身の課題を見つめる。視線はすでに2年後の世界選手権、そして3年後のロサンゼルスへ。「どうやって勝つかを考え、力をつけていきたい」と未来への決意を口にした。
田中、日向…悔しさと学び
男子100m自由形S5の田中映伍(東洋大)、日向楓(中央大)は予選敗退。田中は「メダリストの泳ぎの違いに学んだ」と語り、悔しさを次への糧とした。

シンガポールでの7日間、日本選手団は成果と課題をともに持ち帰った。
上垣匠監督は「世界は、パラリンピック翌年とは思えないほどレベルをあげていた。とくに各国の若手が力を伸ばした」と述べ、特にスペインをはじめとする地域文化に根ざした育成を指摘した。「日本は競技性の高さに偏りがち。水泳をライフワークとして楽しむ文化を育てなければ、世界に置いていかれる」と課題を見据えた。

今大会を支えた多くのボランティアと観客の熱気は、アジア初のパラ水泳世界選手権によるスポーツ、パラ水泳ムーブメントへの期待を膨らませた。大会スローガン「Every journey starts with a single ripple(全ての旅は一つの波紋から始まる)」が呼びかけたように、アジア初の世界選手権がアジア全体へ浸透する最初の波紋となっていくことを祈る。
次なる舞台の一つは、来年の愛知・名古屋アジアパラ競技大会。東京パラリンピックで叶わなかった「有観客での自国開催」に向け、日本チームは再び力を磨き、挑戦を続けていく。
(写真取材:秋冨哲生 校正・小泉耕平、そうとめよしえ)






