世界27か国・地域から249人の選手が集結し、「パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2026」が5月31日、3日間の日程を終えて閉幕した。
秋に開催される愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会の代表選考を兼ねた今大会。日本選手84人にとっては、世界の強豪たちと競いながら、自国開催となるアジアパラへの思いを確かめる舞台でもあった。


絶対王者・山口尚秀が示した圧倒的な存在感

男子200m個人メドレーでは、山口尚秀(四国ガス/SM14)が2分10秒99(979ポイント)でトップに立った。
山口は大会2日目の男子100m平泳ぎでも、世界記録に迫る1分02秒92(1047ポイント)をマーク。今大会を通じて圧倒的な強さを見せつけ、日本代表のエースとして存在感を示した。
男子100m背泳ぎでも齋藤が躍進。窪田、荻原も900ポイント超え

男子100m背泳ぎでは、齋藤正樹(S14)が1分00秒29(981ポイント)で優勝。窪田幸太(NTTファイナンス/S8)も1分06秒45(972ポイント)、荻原虎太郎(あいおいニッセイ/S8)が1分08秒57(919ポイント)で続き、それぞれアジアパラへ向けて順調な仕上がりを見せた。

男子100mバタフライでは、パリ2024パラリンピック金メダリストの木村敬一(東京ガス/S11)が力強い泳ぎを披露した。
「ワールドシリーズを日本で開催できたことが本当にうれしい。10月の名古屋はアジアで一番を決める大きな大会なので、ぜひたくさんの人に見に来ていただけたらと思います」
そう語る木村の視線も、すでに愛知・名古屋2026へ向けられていた。
鈴木孝幸(ゴールドウイン)も最終日の男子50m自由形で、長年のライバルであるCameron Leslie(NZL)との競り合い(S4)を制し、健在ぶりを示した。
日本と香港が繰り広げた女子S14の熱戦
女子100mバタフライでは、知的障害クラス(S14)の日本と香港による激しい争いが繰り広げられた。

香港のチャン・ユイラム(Chan Yui Lam)が1分05秒26(979ポイント)でトップに立つと、病気からの復帰戦となった木下あいらが1分08秒36(901ポイント)で2位に入った。3位には同じく香港のラウ・チウイー(Lau Chiu Yee)、4位には木下を目標とする中学生スイマーの佐藤璃來が続いた。

レース後、表彰台では両国の選手たちが笑顔で健闘を称え合い、秋のアジアパラでの再戦を誓った。ライバルでありながら互いを高め合う姿は、アジアパラへ向かう競技の魅力そのものだった。
世界の壁に挑む、コロンビア若手たち
今大会では、世界のトップスイマーたちも圧倒的なパフォーマンスを見せた。

カルロス・セラノ(Carlos Serrano Zarate/コロンビア)、ネルソン・クリスピン(Nelson Crispin Corzo/コロンビア)、サラ・バルガス(Sara Vargas Blanco/コロンビア)らコロンビア勢は、複数種目で950〜1000ポイント級の泳ぎを連発。世界との距離を改めて感じさせた。さらに、スペインのテレサ・ペラレス(Teresa Perales)は大会期間中に世界記録を樹立し、世界最高峰のシリーズにふさわしいハイレベルな戦いとなった。
その中で、日本の若手選手たちも果敢に挑戦を続けた。

佐藤璃來をはじめ、次世代を担うスイマーたちにとって、世界との差を肌で体感した今大会は、愛知・名古屋2026、そしてロサンゼルス2028へ向けた大きな財産となったはずだ。
HOPEプロジェクトがつないだアジアの未来
日本体育大学の「SFT-NSSU HOPEプロジェクト」を通じて来日した選手たちの姿も印象的だった。

競技歴わずか10か月のパレスチナ代表、ハニン・アブ・ゴシュ(Abu Ghosh Hanin/S6)は、女子50m自由形で愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会のMQS(最低参加標準記録)を突破。また、レバンのアブダラ・ヤシーン(Yassin Abdallah/S6、SB4)、ネパールのジェニシャ・カダヤト(S6)、シンギ・シアンバ(Syangba Member Singi/S10)も国際クラス分けを受けながらレースに挑戦した。
戦禍や厳しい環境のなかでも競技を続ける彼らの姿は、スポーツが国境を越えて人と人をつなぐ力を持つことを、改めて証明していた。
「もう一度アジアパラへ」辻内彩野の願い
初日にアジアパラおよびパンパシフィックパラへの派遣標準記録を突破した辻内彩野(三菱商事/S12)は、最終日の女子50m自由形でも28秒32(870ポイント)をマークした。
誰よりもアジアパラを楽しみにしている彼女には、忘れられない悔しい経験がある

前回の杭州アジアパラ競技大会では、女子S12クラスの参加人数不足により、直前になって種目が不成立となった。代表内定を得ていたにもかかわらず、出場機会そのものが失われてしまったのだ。
近年、同クラスの選手数は世界的に減少傾向にあり、今大会でも女子S12の出場者は辻内ただ一人だった。それでも彼女はアジアパラでの開催を諦めていない。
「アジアパラには楽しい思い出がいっぱいある。種目が開催できたら、本当にこの上なく幸せです」
そう語る辻内の目には、涙が浮かんでいた。
アジアパラの主役であり続けてきた日本パラ水泳
辻内がアジアパラへの出場にこだわる背景には、日本パラスイマーが歩んできた歴史がある。
アテネ2004パラリンピックでは、河合純一(現スポーツ庁長官)が日本選手団主将としてチームを率い、自らも複数のメダルを手にした。その後も成田真由美、鈴木孝幸、木村敬一らが世代をまたいで世界の舞台で輝き続け、日本パラ水泳は日本のパラスポーツ界を牽引する象徴的な存在となった。アジアパラ競技大会においても、水泳は常に日本選手団の中核を担う競技であり続けている。
近年は中国をはじめ各国の強化が急速に進み、選手層やメダル数では大きな変化が生まれている。それでも日本は世界で戦うトップスイマーを継続的に輩出し、アジア有数の競技力を保ってきた。
加えて、本大会、パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡をアジアで唯一開催し続けることで、競技力にとどまらずアジア全体のパラ水泳の発展を支える役割も担っている。
愛知・名古屋2026まで、あと4か月。辻内の涙も、若手選手たちの挑戦も、世界王者たちの覚悟も、その先に見据える舞台は同じだ。富士・静岡のプールで交わされた数々の誓いは、この秋、アジア最大の舞台で再び試されることになる。






