2026ジャパンパラ水泳競技大会(WPS公認)が9月19日、横浜国際プールで開幕した。8月末のパラパンパシフィック(以下、パンパシ)から3週間、10月の愛知・名古屋アジアパラ競技大会までは1カ月。ふたつの国際大会をつなぐ中間地点となった大会の初日は、100m背泳ぎで日本記録が次々と塗り替えられる一日になった。なお大会は台風25号の接近により最終日21日の中止が決定している。

S8の主役交代劇――荻原、一日で二度の日本新
午前の予選第7組。荻原虎太郎(S8・あいおいニッセイ同和損保)が1分05秒51をマークし、窪田幸太(NTTファイナンス)が2023年3月から保持していた日本記録1分05秒56を塗り替えた。8月末のパンパシで出した自己記録1分05秒79から、わずか3週間での更新だった。

決勝はさらに動いた。荻原は1分05秒06。一日で二度、自身の記録を書き換えた。パリ2024銀メダリストの窪田は1分09秒03の2位。パリの同種目8位から巻き返した日本代表キャプテンが、記録とともに主役の座についた。
齋藤正樹、58秒台へ――S14の記録が動いた
予選第8組では、齋藤正樹(S14・伊藤忠丸紅鉄鋼)が59秒75。7月に同じこのプールで樹立した日本記録59秒76を0秒01更新すると、決勝では58秒96まで伸ばした。従来の59秒82を大きく上回る、アジア記録相当のタイムである。
同じ決勝では山口尚秀(四国ガス)が1分01秒98で2位、籠瀬嶺(野村不動産)が1分03秒26で3位。S14の背泳ぎの水準そのものが、この一日で引き上げられた。
S10の南井瑛翔(TOYOTA)も1分03秒97の日本新。自身の記録1分04秒12を更新し、アジア記録1分03秒73まで0秒24に迫った。アジアパラでは出場全種目でのアジア記録更新を目標に掲げる。この種目のアジア記録は今年5月にパリで生まれたばかりで、南井の挑戦は名古屋へ持ち越しとなった。
中長距離――世代の異なる4人が、同じ方角を見ている
男子の中長距離自由形には、アジアパラを目前にした選手たちの現在地が並んだ。

200m自由形S5の田中映伍(東洋大学)は、予選2分53秒49、決勝2分51秒47と二度の大会新。レース後、200mの練習を取り入れたことで大きなキックが打てるようになり、50m種目でもキック数が減って最後までバテずに泳げるスタミナがついたと語った。アジアパラでは5種目に出場予定。ベストを出してメダルを獲り、中国勢に挑むつもりだ。
400m自由形S6の山田龍芽(宮前ドルフィン)は5分36秒49で優勝。午前の予選では大会新の5分34秒90をマークしたが、決勝はあえてタイムを求めなかった。200m過ぎから「ひとかきにつき1回」呼吸する新しいフォームを実戦で試したのだという。中学2年、代表最年少。課題は250m付近からの持久力だと自己分析する。

東京2020パラリンピック後、川渕大耀(S9・NECGSC溝の口)に憧れながら自身もアジアユースパラ、そしてパンパシにも出場し成長する山田。地元・横浜での開催について尋ねると、このプールは「(競技や選手を)知り尽くしている。地元として誇らしい」と答えた14歳は、アジアパラでの自己ベストとメダルを見据える。

同じ400m自由形のレースでは、川渕大耀(S9・NECGSC溝の口)が4分18秒75。自身が保持する日本記録=アジア記録4分16秒76まで1秒99だった。「選考会の時点より良い泳ぎができている」と手応えを口にし、スピードが上がった分、長距離の練習量を増やして持久力とのバランスを整えたことが好調の要因だと明かした。自分より速い中国のライバルの存在も、楽しみだと言う。

富田宇宙(S11・EY Japan)は4分37秒74。パンパシフィックからの2週間で修正を加え、順調にタイムを戻してきた。米国遠征は2年後のロサンゼルスを見据えた屋外プールへの対応のシミュレーションだったと振り返る。アジアパラでは男子S11はベトナム勢や中国の若手が台頭する激戦区になるとし、観客にとって見応えのあるレースをしたいと語った。
木下あいら、復帰の水面で日本新

女子100m背泳ぎS14の決勝。木下あいらが1分09秒32で泳ぎ切り、電光掲示板に「日本新」の文字が灯った。パリ2024で自身が作った1分09秒73の更新。再生不良性貧血による療養から競技に戻った木下が、復帰後初めて日本記録を塗り替えた瞬間だった。復帰の先には、代表として臨む名古屋がある。
2位には中学生の佐藤璃來が1分12秒17で続き、芹澤美希香(宮前ドルフィン)が3位。佐藤は200m自由形でも2分15秒47まで伸ばしており、木下の隣のレーンで泳いだ経験ごと、次の世代に残る一日になった。
視覚障害のクラスでは、辻内彩野(S12・三菱商事)が1分16秒96、笠本明里(S13・神戸楽泳会)が1分17秒57でそれぞれ1位。一方、石浦智美(S11・伊藤忠丸紅鉄鋼)は1分24秒29と本来の泳ぎには届かなかった。レース後、海外遠征の疲労や体調面の不調が重なったことを率直に語った石浦だが、アジアパラへの言葉は明確だった。アジアパラでは女子S11がエントリー数の不足により単独クラスとしては成立せず、石浦はS11〜S13を統合したコンバインド種目に出場する見通しだという。順位はタイム順で争われる。中国勢の出場はないようだ。それでも「(ロサンゼルスで)待っているぞ」というメッセージを込めて、日本記録の更新を目指すと語った。
50mバタフライS7の西田杏(シロ)は、予選39秒85から決勝37秒98へ1秒87上げて1位。予選で落ち着いて感覚を確かめ、決勝で上げるというプラン通りのレース運びだった。夏場はパワー向上に取り組み、現在はスピードへの移行期。東京パラリンピックは画面越しの応援だったが、今大会は家族や友人が現地で見られる貴重な機会だとし、会場に来てくれる人に最高の泳ぎを見せることが第一の目標だと語った。
デフスイマーたちの初日
デフ(S15)のレースも動いた。男子200m自由形では玉造珠宇(JSS立石)が2分07秒61で制し、50mバタフライは星泰雅(サムティ)が27秒37。女子は星京香(日本触媒)が50mバタフライを30秒02で制した。200m自由形の串田咲歩(サンながら)は2分11秒76で、S15日本記録まで1秒35。11月の東京デフリンピックを経た選手たちが、それぞれ次の国際大会へ向かっている。
2>あす、山口尚秀の「1分2秒台」へ
この日の男子100m背泳ぎで1分01秒98をマークした山口尚秀の本番は、あすの100m平泳ぎである。

初めてこのプールで泳いでから約10年。横浜国際プールへの思いを尋ねると、最初は施設の大きさへのワクワクが強かったが、大会を重ねるうちに「安心できる場所」になったと語った。7月のインクルーシブ水泳競技大会では、ここで参考記録ながら世界記録を上回る1分02秒13を泳いだ。非公認ゆえの悔しさを抱え臨んだパンパシフィックで、公認の世界記録1分02秒38を樹立。それでも目線はさらに先にあり、狙うのは1分2秒台、そしていずれは1分1秒台だと言う。
パラリンピック選手として史上初めて国民スポーツ大会に出場した経験を、山口は「オリ・パラの架け橋になるきっかけ」と位置づける。健常者との差を実感したからこそ、健常者の大会での決勝進出も目指したいのだと。
その山口が「聖地」と呼ぶ横浜の水面で、あす、公認の世界記録への挑戦が始まる。
【台風の影響による、2026ジャパンパラ水泳大会 あす9/20(日)の日程】
台風25号の接近により、最終日21日(月・祝)は中止となりました。あす20日は、21日予定種目を組み込んだ日程で実施されます(横浜国際プール)。
▫️ 予選 10:00〜 100m平泳ぎ/200m個人メドレー/100m自由形
▫️ 決勝 14:00〜 同6種目
▫️ 21日予定種目 17:00〜 ※予選なしのタイム決勝
100mバタフライ → 男子50m平泳ぎ → 50m背泳ぎ → 50m自由形(19時過ぎ終了予定)
気象・交通状況により競技途中で中止となる場合があります。最新情報は大会公式HPをご確認ください。
<参考>
ジャパンパラ水泳公式ページ
https://www.parasports.or.jp/japanpara/swimming/






