ベテランから若手へバトンをつなぐ。成田真由美の最後の挑戦に向けて 〜日本代表推薦決定インタビュー〜

東京パラリンピック水泳日本代表の選考会から1週間。横浜国際プール(横浜市都筑区)で代表候補に選考された27名のうち23名による東京にむけた記者会見が行われた。残り4名の選手は参加基準であるクラス分けを17日から開催されるベルリン大会で受験、その結果を持つ。

ベテランがつなぐバトン

6月5日、パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューで代表チームについて話す、上垣匠日本代表監督 写真・秋冨哲生

自国開催でのパラリンピックを約2ヶ月半後に控えるパラ水泳チーム・ジャパンは、6大会目になる成田真由美(横浜サクラ)をはじめ、鈴木孝幸(GOLDWIN)、山田拓朗(NTTドコモ)、中村智太郎(HISAKA)、木村敬一(東京ガス)、小野智華子(あいおいニッセイ同和損保)のベテラン6名以外、21名がパラリンピック初出場となった。自国開催を競技生活最大の節目と捉える選手たちから、世界へ羽ばたこうとする選手たちへ日本のパラ水泳のバトンを渡すパラリンピックとなりそうだ。

成田真由美、レジェンドの想い

コロナ禍でオリパラ開催へ賛否の議論が吹き荒れるなか、障害のある選手がいかにして競技の世界を生き抜いてきたか披露する場をもてるかどうかは、日本が目指す共生社会への一歩へ踏み込めるかどうかを左右するかもしれない。

5月21日、ジャパンパラ水泳競技大会(東京パラ選考会)女子50m自由形決勝スタート前の成田真由美 写真・山下元気

チーム最年長の成田は、アトランタ(1996)、シドニー(2000)、アテネ(2004)、北京(2008)、リオ(2016)と5大会に出場。金メダル7個を獲得したアテネ大会後のクラス変更で一度は引退を余儀なくされたが、新たなクラスでも記録を伸ばしリオ大会で代表に復活した。

上垣匠日本代表監督は「(成田は)節目の大会と考えているだろう。我々も、アスリートと関わる以上は新たな選手と向き合うと同時に、去る選手と向き合っていく。花道を作りたい。納得をしたレースができるようサポートしたい。長い経験と実績を若い選手との交流の中で生かしてほしい」とレジェンドへの敬意と期待を口にしていた。

6月5日、パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューで話す成田真由美(横浜サクラ) 写真・秋冨哲生

「6回目にして初めて派遣標準を切れずに選考を待つ形となったが、決まったことは素直にほっとした。今まで以上に厳しいトレーニングを積み、納得して終わることができればと思います。
自国開催が決まったとき、東京パラリンピックを盛り上げるために何ができるか考え復帰を決めました。その時は正直リオは見えてなかったが、リオの代表選考会で派遣記録を突破でき、それからずっと毎年代表選手としてチームにいることができた。自国開催なので本当は観客も入って大きな歓声の中で泳ぎたいという気持ちはありますが、この(コロナの)状況なので贅沢は言えないのかなと思っています。残された時間を悔いのないように、毎日毎日練習を積んでいきたいと思います」と話す成田。

「リオパラリンピックの時は“お母さん的存在“って言ってたんですが、もう私の同級生でおばあちゃんになった人もいるので、おばあちゃんにしてはまだアレかなとはおもうんですけども、ベテランの域にいるといえる私の経験から感じ取ってくれたら嬉しいです」

Narita Mayumi (JPN) Women's 50m Freestyle S5
2019年9月の世界選手権で女子50m自由形にいどむ成田真由美(横浜サクラ) 写真・安藤理智

 ーーメダル候補の山田美幸選手については?

「山田選手は今もうメダル候補でいい意味でとても盛り上がっていると聞きました。ただそこで自分を見失わないよう、周りの大人たちにもしっかりそういうところは支えてほしいとコーチの野田さんにもお伝えしました」


 ーー開催に対して賛否色々あるところで成田さんの考えは?


「難しいなとはもちろん思いますが、選ばれた以上はやりたいと思いますが、(選手は)決めることはできないので、練習を積んでいくしかないと気持ちを切り替えています。ニュースで感染者の数や死者の数を聞くと、反対する人の意見も出て当然と思いますが、選手として泳ぎたい一心で練習を続けていくしかないかなと思います」



リオパラリンピック、女子50m自由形(S5) 成田真由美の泳ぎ 写真・西川隼矢

 ーーこれまで、パラリンピックで共生社会をと言ってこられましたね。

「障害のある人のパラリンピックを多くの人に見てもらって、たとえば私の場合だと、手だけで泳ぐというところを見てもらって、健常者と呼ばれる人と違う部分があるけれども、残されたものをフルに活用してスポーツをしているところを見てもらったときに、もちろんスポーツとして見てもらうことも大事ですが、じゃあ車椅子の人ってどうやって生活をしてるの?とか、車椅子用の駐車場とか、車椅子用のトイレとかどうなってるの?とか、そういうところまで含めて見てもらうことが、日本にも多くの障害のある人が生活をしているということを考えてもらえて、もっとすみやすい街になると思います。ただスロープを作ればいいかとか、エレベーターを作るだけではない心からの意識が生まれると思います」

2015年9月、ミックスゾーンでの成田真由美(横浜サクラ)今シーズンから競技の舞台へ復帰した。女子100メートル平泳ぎSB4で自己ベスト 写真・佐々木延江

ーー多くの大会で多くのものを得たと思うが、新しく得たいものはありますか?


「代表で居続けることは大変でしたが、それが自分の自信につながっていたと思います。毎回の大会で思い出はあるが、最後として迎えるパラリンピックを多くの人に泳ぎを見てもらいたい。自分が車椅子になった頃より今は住みやすくなっていると思います。ただ今で満足するわけにはいかなくて、もっと改善していかなくてはいけないと思います。東京が本番で、これからもっと伝えていきたいと思います」

地元横浜から世界へ


2019年に日本代表チーム監督に就任した上垣匠氏は、リオに出場した若手女子、森下友紀、池あいり、一ノ瀬メイなどが東京代表とならなかった件について記者に問われると「パーソナルな競技環境を重視しなくてはならなかった。2019年から選手の所属に強化を任せる方向がある。選手は各所属で育て、そこから合宿、遠征にくる。地域の文化を育てる方向だ」と今後への考えを示した。

6月5日、パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューで代表チームについて話す、上垣匠日本代表監督 写真・秋冨哲生

選考会が行われた横浜国際プールのある横浜市を地元として活動する選手は、成田真由美、山田拓朗(NTTドコモ)、窪田幸太(日体大)、日向楓(宮前ドルフィン)、芹澤美希香(宮前ドルフィン)、富田宇宙(日体大大学院)らがいる。このタイミングで実力を伸ばしてきた若手選手の中に宮前ドルフィンの日向楓(両腕欠損)と芹澤美希香(知的障害)がいる。


日向楓



神奈川県立旭高校1年の日向楓(宮前ドルフィン)は、泳ぐたびに50mバタフライで日本記録を更新し続けている。5月22日の代表選考レースでも派遣基準に僅かに届かなかったが、35秒78の日本記録を更新、東京パラリンピック日本代表に選ばれた。
日向は兄の影響で水泳を始めた。小学5年の時、リオパラリンピック陸上銀メダリストで同じ横浜市瀬谷区出身の多川知希が学校訪問した時に交流があり「次の東京パラリンピックの選手村で会いましょう」と約束を交わしたことがきっかけでパラリンピックを目指し競技を始めたという。

6月5日、パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューで話す日向楓(宮前ドルフィン) 写真・秋冨哲生

「多川選手は東京パラリンピックの陸上代表に選ばれなかったけど、個人的にあって話したいと思います」



 ーー宮前ドルフィンはどんなところが気に入っていますか?




「チームの人たちと競争したり、たくさんの人といろんな話をしたり、仲を深めながらやることが楽しいです。辛い時もあるが、チームの人とコーチと楽しく練習すること。宮前ドルフィンの練習はコーチの優しさがあって、一人一人に教えてくれるところがいいと思います。チームの人が多く、楽しくできるところがいいと思います」


芹澤美希香

女子100m平泳ぎで芹澤美希香(宮前ドルフィン)は2019年ロンドンで開催された世界パラ水泳選手権大会に参加。知的障害からは日本初の女性アスリートだった。結果は決勝進出、7位。先週の東京パラリンピック代表選考会ではMQS(東京パラリンピック参加標準記録)ランキングから代表推薦が決定した。

6月5日、パラ水泳日本代表推薦決定選手インタビューで話す芹澤美希香(宮前ドルフィン) 写真・秋冨哲生

 ーー日本代表推薦選手に選ばれた感想は?

「選ばれた時はとても嬉しかったです。2019年の世界選手権の時よりも周りに置いてかれないようにもっと力強い泳ぎをしたい。そのために、持久力と細かいところの練習を頑張っていきたいです」

 ーー選考されたことを誰に一番に伝えましたか?

「一番初めに母に代表決まったことを伝えました。おめでとうと言われました。自分に自信を持って泳がなきゃダメと、母とは気持ちの話をします。目標やライバルは、まわりにいる同じ種目で泳ぐみんながライバルです」

代表に内定した選手たちにとって初めての代表合宿が行われた。翌日は身体障害の選手も共にWPS公認・日本知的障害者水泳選手権に出場する。
その後7月18日〜21日まで長野県での合宿のあと、各自の所属に戻って練習。「連盟が強化するのではなく、これからは所属や地域で選手を育てる」ということを実践する考え。
8月にはNTCで感染対策(バブル体制)をとり直前合宿が行われる予定。またこの間にもう一度公式レースができないか検討中であるという。

<参考>
リオへ一発勝負の1日。派遣標準タイムをかけた静岡水泳記録会

リオへ一発勝負の1日。派遣標準タイムをかけた、静岡水泳記録会

(写真取材・秋冨哲生)

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