「パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡2025」に出場するため、ネパールパラ水泳協会会長Saroj Shrestha氏と、男女2名の選手が来日した。来日間もない4月6日、オンラインでインタビューを行い、現地での遠征の様子を見守った。
今回の来日メンバーは、Shrestha会長のほか、20歳・男子のHarkaman Gharti(ハルカ)と、33歳・女子のSamana Gaire(サマナ)の3名だった。二人の選手は初めての国際大会だった。

パラ水泳では、国際大会に出場資格として「クラス分け(障害の程度による競技区分判定)」を受験し国際クラスを取得しなければならない。本シリーズでは大会3日前からクラス分けが行われている。初出場の二人もクラス分け受験が大きな目標だった。
そのクラス分けで、サマナはエントリーしていたS10クラス(身体障害では最も障害の軽い)には該当しないとなり、残念ながら競技に参加することはできなかった。
しかしクラス分けの後には、満開の桜や雪化粧の富士山など、日本の自然を満喫する時間もあり、「とても印象的だった」と話してくれた。
出場資格を得たのはハルカのみ。両腕に障害のあるS5クラスで、50mおよび100m自由形に出場した。
日本代表の田中映伍(東洋大学)や日向楓(中央大学)と同じ組で泳いだハルカは、惜しくも予選敗退となったものの、国際大会初出場で自己ベストを更新した。試合後「最善を尽くした」と語ったその表情には、達成感と次なる挑戦への意欲がにじんでいた。

ハルカは、一般社団法人HOPE –Help One Person Everyday– の支援を受けている。
また、筆者が代表を務めるよこはまクリエイティブ財団からもチームの渡航費用をサポートさせていただいた。
さらに、ネパールのパラスイマーへ向けて、パリ2024パラリンピック金メダリストの木村敬一ら日本の選手がスイムウェアなどをネパールの子どもたちに寄贈してくれた。

Shrestha会長は、「国際大会への出場には多くの費用がかかる」と語る。ネパールパラ水泳チームの次なる目標は、12月に開催されるドバイでの「アジアユースパラゲームズ」、そして2026年の「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」だ。ネパールからさらに多くの若手選手が出場できるよう、準備を進めていく。
ネパールでは、事故や怪我により障害を負った人々にとって、水泳は重要なリハビリ手段の一つだ。国内で開催されるパラ水泳大会には毎年50〜60人が参加し、うち10〜15人を選抜して強化合宿を行い、育成を行っている。
「ハルカのような可能性のある選手には、より多くの国際大会に出場できるよう機会を作りたい。そして、ネパールパラ水泳協会としては彼だけでなく、すべてのパラスイマーに平等な機会を与えたいと考えています」と会長は重ねて話した。
ネパールのパラ水泳競技環境の厳しさ
昨夏のパリパラリンピックでネパール選手がパラテコンドーでメダルを獲得したことは、同国のスポーツ史上初の出来事であった。オリンピック・パラリンピックを通じて、ネパールにとって初のメダルであり、国中が熱狂した。しかし、Shrestha会長は「私たちの国には、そもそも練習環境自体が整っていない」という。
実際、ネパールのパラ水泳を取り巻く環境は恵まれていない。ハルカたちが練習するのは屋外プールであり冬は泳ぐことができない。首都カトマンズに屋根つきの温水プールはあるが使用料が高く、限られた選手しか使えないという。
Shrestha会長は「若手選手育成のため、日本の指導者がネパールを訪れたり、ネパールの選手が日本での合宿に参加したりできるよう、日本のパラ水泳と交流をもちたい」と願っていた。日本チームはぜひ交流を検討してみてほしい。

<参考>
ネパールパラ水泳協会
https://npsan.org.np/
(写真 秋冨哲生 編集・校正 佐々木延江)