本フォーラムは、今年(2025年)11月に開催される「第25回夏季デフリンピック東京大会」に向け、メディアを通じてデフスポーツの認知と関心を広げることを目的として開催された。第1部では、水泳とオリエンテーリングという二つの競技団体が登壇し、国際大会での実際の取り組みや視覚的配慮の技術、教育との接点について語った。第2部では、会場に設置された11競技団体のブースで記者らとの直接対話が行われた。

「聞こえない子どもたちに夢を」——水泳の視覚技術の進化と日本代表
登壇した日本デフ水泳協会・常務理事で元日本代表の藤川彩夏氏は、自身の競技経験をふまえながら「聞こえない子どもたちが夢を持てる環境を、水泳を通じて築いていきたい」と語った。
水泳競技は、東京2020オリンピック・パラリンピックと同様、東京アクアティクスセンターで実施予定である。

デフリンピックにおける水泳は、競技規則こそ健聴者と同様であるが、スタートやターン時には視覚的配慮が導入されている。スタート合図には、SEIKO社が開発した「スタートランプシステム」が使用され、プリンティングタイマーと連動したフラッシュライトや表示盤が選手に視覚信号を送る。
さらに、800mや1500mといった長距離種目では、最後のターンを知らせるため水中に沈めたプラカードを活用するなど、視覚表示の工夫がなされている。
藤川氏は、ウクライナやアメリカ、ポーランドといった世界の強豪国に触れた上で、ロシアおよびベラルーシの選手については中立的立場の選手として個人種目への参加が認められている。出場の可能性があるという。
日本代表としては過去最多の15名が内定し、「6個以上のメダル獲得を目指してチーム一丸となって準備している」と述べた。
教育が拓いた競技環境——オリエンテーリングの静かな進化と国際舞台
登壇したのは、日本デフオリエンテーリング協会会長であり、同競技の国内第一人者でもある野中好夫氏。20年以上前に日本で初めて5人のチームを結成した際の苦労を振り返りながら、「教育環境の整備が、デフ選手が健聴者との競技する道を拓いた」と述べた。

オリエンテーリングは、地図とコンパスを頼りに山野に設けられたチェックポイント(コントロール)を通過しながらゴールを目指す、地形読解・判断力・持久力が問われる知的かつ身体的競技である。東京2025では、伊豆大島や日比谷公園などの自然環境を活かした会場が予定されている。
競技の公平性を保つため、選手はもちろん関係者・報道陣を含め、事前に会場に立ち入ることが厳しく制限されている。野中氏は「もし情報が漏洩すれば競技の根幹が崩れてしまう」と説明し、報道関係者にも理解と協力を呼びかけた。
また、スタート合図には聴覚に依存しない「FEPLEDランプ」が初めて導入され、光の色で選手にカウントダウンを知らせる。アナウンスにおいても手話や文字情報の提供が検討されており、共生社会の実現に向けた技術革新の現場でもある。
デフスポーツが照らす未来——共に「見る」スポーツへ
フォーラム第2部では、バスケットボール、柔道、射撃などを含む11競技団体がブース出展し、報道陣との個別の対話が行われた。東京デフリンピックにおけるすべての競技は、選手のみならず観る者にも「視覚」を通じた新たな体験を提示する。


スポーツを通じたインクルーシブな社会が問われるなかで、デフリンピックは情報アクセシビリティや教育との接点、そして国際的な基準の中での公平性を追求している。東京2025は、ただ競技大会ではなく、共生社会に向けた実践の場となることが期待されている。
(写真取材・校正 秋冨哲生)






