公開: 2026年9月17日 at 6時52分 — 更新: 2026年9月17日 at 6時52分

世界新の余韻から自国開催アジアパラへ――横浜で迎える2026ジャパンパラ水泳、3日間の見どころ

知り・知らせるポイントを100文字で

世界新の余韻から、自国開催の愛知・名古屋2026アジアパラへ。日本のトップスイマー272人が横浜に集う。記録への挑戦とともに、多様なスイマーが育ててきた横浜国際プールの水泳文化を知り、知らせる3日間の見どころを紹介する。

2024年のパリパラリンピックから2年。パラ水泳を取り巻く国際舞台は、シンガポール2025世界パラ水泳選手権、東京2025デフリンピック、そして2年連続で開催されたパラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡へと続いてきた。

100m平泳ぎ(S14)世界記録保持者・山口尚秀(四国ガス)写真は、7月11日、横浜インクルーシブ水泳競技大会 1日目の200m自由形のスタート前。 写真・秋冨哲生

その流れの先で、9月19日から21日までの3日間、「2026ジャパンパラ水泳競技大会(WPS公認)」が横浜国際プールで開催される。

大会を前にした8月末、米国カリフォルニア州で開催された2026パラパンパシフィック水泳選手権では、男子100m平泳ぎSB14の山口尚秀(四国ガス)が1分02秒38の世界新記録を樹立した。

8月28〜30日にロサンゼルスで開催されたパンパシフィックパラ水泳選手権大会・日本代表メンバーのお披露目。7月12日、横浜国際プールで 写真提供・Mieko KAWAKAMI

2028年ロサンゼルスパラリンピックを見据え、ロサンゼルス近郊の屋外プールで戦った日本代表「トビウオパラジャパン」にとって、帰国後初の国内大会となる。

そして、その先にあるのが10月18日に開幕する「愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会」である。

水泳の日本代表には39人が選出された。前回の杭州2022アジアパラ競技大会(2023年開催)では、日本は水泳で金19個を含む56個のメダルを獲得している。自国開催となる今回も、パラ水泳日本全体で「50個以上のメダル獲得」が視野に入る。

前回2023年、杭州アジアパラ(中国)での日本選手団、応援の様子。中心に鈴木孝幸(GOLDWIN)

ジャパンパラは、アジアパラ出場選手にとって、本番を約1カ月後に控えた重要な実戦となる。

「S」「SB」「SM」――クラスを知るとレースが見えてくる

パラ水泳のスタートリストには、「S8」「SB14」「SM11」といった記号が並ぶ。

Sは自由形、背泳ぎ、バタフライ、SBは平泳ぎ、SMは個人メドレーを示す。

数字の1〜10は主に肢体不自由、11〜13は視覚障害、14は知的障害のクラスである。肢体不自由・視覚障害のクラスでは、競技動作への障害の影響が大きいほど数字が小さくなる(=障害が重いほうが数字が小さい)。

ターンやフィニッシュを伝える、タッピング 写真・PARAPHOTO

視覚障害のS11(全盲)では、選手は光を遮るブラックゴーグルを装着し、ターンやゴールの際にはコーチが「タッピングバー」で身体に触れ、壁が近づいたことを知らせる。

レース後にゴーグルチェックをうける木村敬一(四国ガス)と星奈津美コーチ 写真・秋冨哲生
パラ水泳世界選手権2025シンガポール・女子50m背泳ぎ 予選で世界記録を持つシンガポールのYip Pin Xiu(S2)のスタートシーン。 写真・秋冨哲生

ジャパンパラでは、国内独自のクラスとして聴覚障害(デフ)のS15、ダウン症などを対象とするS21の選手も出場する。デフスイマーのスタートでは、音に代わってスタートランプの光が合図となる。

同じ距離、同じ泳法であっても、身体の使い方やスタート、ターン、ゴールへのアプローチは一人ひとり異なる。クラスを知ることは、選手がどのように水と向き合っているのか、競技運営の成り立ちを見る入口でもある。

744人が泳いだ水面に、272人の精鋭が集う

会場となる横浜国際プールでは今年7月、「第5回インクルーシブ水泳競技大会」が開催された。

7月11〜12日、横浜国際プールで第5回横浜インクルーシブ水泳競技大会が開催されパラリンピアンを含む障害の有無によらず744人のスイマーがエントリーした。写真・秋冨哲生

健常者、パラスイマー、デフスイマーら過去最多の744人が参加し、年齢や障害の有無を越えて同じ水面で競った。

それから約2カ月。

今回のジャパンパラには、知的障害163人、肢体不自由77人、視覚障害16人、聴覚障害16人の計272人がエントリーしている。予選は、インクルーシブ水泳と同じタイム順(クラス混合)で競い、決勝は各クラス上位8位によりクラスごとに競う。パラリンピックと同じ予選・決勝方式で行う国内唯一の大会でもある。

前回のジャパンパラ水泳はアジアパラ開催地の名古屋で行われ、横浜国際プールでは2024年パリ2024パラリンピック直前大会が開催された。日本代表選手のフォトセッション 写真・山下元気

国内トップクラスのパラ選手たちが、アジアパラを目前にどこまで状態を高めてきたのか。デフスイマーも次の国際大会に向き合う。3日間のレースから、その現在地が見えてくる。

9月19日 中長距離から始まる3日間

初日は200m自由形、50mバタフライ、100m背泳ぎ、400m自由形など、アジアパラでも実施される種目が並ぶ。

200m自由形では、アジアパラ派遣A標準を突破した田中映伍(S5・東洋大学)、中学生の佐藤璃來(S14)らが出場する。

2024年ジャパンパラ大会初日(5月3日)の男子100m背泳ぎS8の表彰式。金メダル、窪田幸太(NTTファイナンス)右、銀メダル、荻原虎太郎(セントラルスポーツ)左 写真・秋冨哲生

100m背泳ぎでは、日本代表キャプテンの荻原虎太郎(S8・あいおいニッセイ同和損保)と、パリ2024銀メダリストの窪田幸太(S8・NTTファイナンス)の対戦に注目したい。S14クラスでは、木下あいら、芹澤美希香(宮前ドルフィン)、佐藤璃來の3人が予選を隣同士のレーンで泳ぐ。視覚障害では、齋藤元希(S12・スタイル・エッジ)、石浦智美(S11・伊藤忠丸紅鉄鋼)、笠本明里(S13・神戸楽泳会)ら、異なるクラスのトップ選手がそれぞれの記録に挑む。

400m自由形では、5月のワールドシリーズ富士・静岡で自己ベストを10秒以上更新して派遣A標準を突破した中学2年生、山田龍芽(S6・宮前ドルフィン)が登場する。

今年(2026年)5月、パラ水泳ワールドシリーズ富士・静岡での男子400m自由形予選で自己ベスト、目標のアジアパラ派遣基準記録を突破し、プールの中で喜びを見せる中学2年生の山田龍牙(S6)。大舞台での緊張を乗り越え、自己ベストを10秒以上縮める堂々たるレースを見せた。 写真・秋冨哲生

富田宇宙(S11・EY Japan)、川渕大耀(S9・NECGSC溝の口)ら、中長距離で日本を支える選手たちの泳ぎも見どころとなる。

50mバタフライでは西田杏(S7・シロ)が、自国開催のアジアパラへ向けてスプリント力を磨く。

9月20日 山口尚秀の「1分02秒」、木下あいらの200m個人メドレー

2日目の中心となるのは100m平泳ぎである。

男子SB14には、世界記録保持者の山口尚秀が登場する。

2026年8月29日、ロサンゼルス、Mt. San Antonio Colledgeでの山口尚秀(四国ガス)の泳ぎ。写真提供:一般社団法人日本知的障害者水泳連盟

8月29日のパラパンパシフィックで記録した公認世界記録は1分02秒38。しかし山口は今年7月、同じ横浜国際プールで開催されたインクルーシブ水泳競技大会で1分02秒13(自己ベスト)を泳いでいる。

大会が世界記録公認の対象ではなかったため参考記録だが、現在の世界記録を0秒25上回るタイムである。

あらためて国際公認となる横浜の水面で、「1分02秒」のどこまで迫るのか。なお山口は、初日の100m背泳ぎ、最終日の100mバタフライにもエントリーしている。

同じ100m平泳ぎには、木村敬一(SB11・東京ガス)、福田果音(SB8・KSGときわ曽根)、芹澤美希香(SB14)、直井駿弥(SB14)、星泰雅(SB15・サムティ)らも出場する。

東京2020パラリンピック(2021年)で男子100mバタフライS11で競い合う木村(手前)と富田(奥) 写真・秋冨哲生
デフリンピックで2日連続の金メダルを獲得した茨隆太郎 写真
・秋冨哲生

デフリンピック金メダリストの茨隆太郎(SB15・SMBC日興証券)は、今大会この100m平泳ぎのみに出場する。予選のスタートリストでは山口の隣を泳ぐ。

障害もクラスも異なる選手たちが、それぞれの世界記録、日本記録、自己記録を追う。それが予選のタイムレースを見る面白さでもある。

200m個人メドレーは、2日目のもう一つの見どころである。

女子SM14には、日本のエース・木下あいらが登場する。再生不良性貧血による療養から競技へ復帰し、パンパシパラを戦った木下が、得意種目でどんな泳ぎを見せるのか。木下は、初出場した2023年の世界パラ水泳選手権(マンチェスター)のこの種目で銀メダルを獲得している。復帰後の現在地が最もよく見えるレースになりそうだ。

男子では、200m個人メドレーと100mバタフライを主戦場に、アジアパラでは出場全種目でのアジア記録更新を目指す南井瑛翔(SM10・トヨタ自動車)が登場する。山田龍芽(SM6)、荻原虎太郎(SM8)、川渕大耀(SM9)、田中映伍(SM5)、齋藤元希(SM12)らも、4泳法をつなぐ総合力を競う。

男子100m背泳ぎでアジア記録(01:04.76)をマークした南井瑛翔(当時近畿大学) 写真・秋冨哲生

100m自由形では、辻内彩野(S12・三菱商事)、水上真衣(S8・東京ガス)、川辺多恵(S10・東和エンジニアリング)らが記録に挑む。

9月21日 木村敬一の100mバタフライ、そして50mの勝負へ

最終日は100mバタフライ、50m平泳ぎ、50m背泳ぎ、50m自由形が行われる。

100mバタフライでは、パリ2024金メダリストの木村敬一(S11・東京ガス)が登場する。

木村は7月のインクルーシブ水泳競技大会でも50mバタフライで好記録を残しており、ロサンゼルス2028へ向かう過程で、どのような泳ぎを見せるのか注目される。

今年(2026年)7月11日、インクルーシブ水泳での木村敬一(S11・東京ガス) 35歳のベテラン。東京、パリと出場し金メダル3個を獲得。オリンピアン星奈津美さんに師事し共に挑戦している。 写真・秋冨哲生

同じくこの種目を主戦場とする久保大樹(S10・クボタロジスティクス)、2日目の200m個人メドレーに続いて登場する南井瑛翔(S10)のほか、松田天空(S14・NECFS)、村上舜也(S14・NECFS)、山口尚秀(S14)らも出場する。

昨年(2025年)の鈴木孝幸。自身が主催するインクルーシブ水泳「鈴木孝幸杯」でリレーチームと 写真・秋冨哲生

50m平泳ぎには、パリ2024でこの種目の金メダルを獲得し、自己ベストを16年ぶりに更新したベテラン・鈴木孝幸(SB3・GOLDWIN)が臨む。鈴木は2日目の100m自由形との2本に絞って出場する。

そして3日間を締めくくる50m自由形。

パラ水泳世界選手権2025シンガポールで女子100m自由形S11を泳ぐ石浦智美 写真・秋冨哲生

女子は辻内彩野、石浦智美(S11・伊藤忠丸紅鉄鋼)、芹澤美希香、初日の50mバタフライに続いて出場する西田杏ら、男子は直井駿弥(S14)、田中映伍、山田龍芽らが、一瞬のスタートからタッチまで記録を競う。

横浜の水面が育ててきたもの

1998年に開業した横浜国際プールでは、肢体不自由、視覚障害、知的障害、聴覚障害のスイマー、そして障害のないスイマーまで、多様な選手が競技を続けてきた。ジャパンパラ水泳競技大会の開催は今回で9回目となる。

ジャパンパラはパラ水泳の国内最高峰の大会である。身体、知的、デフの選手が同じ水面で競うこのかたちには、障害種別ごとに大会を開催できる環境が国内に十分ではなかったという経緯がある。

一方で、障害のある人の水泳は、障害の種類や程度に応じた「クラス分け」によって、異なる身体を持つスイマーが同じレースを成立させてきた競技でもある。その意味で、パラ水泳はもともとインクルーシブな水泳だった。

2022年に始まったインクルーシブ水泳競技大会は、その水面を障害のないスイマーにも広げるものとなった。トップアスリートの真剣勝負と、多様な人々が集う大会。その双方を受け入れてきたことが、このプールが育んできた水泳文化である。健常・身体・知的・デフの選手が一つの公認大会で競う例は国際的にも少なく、「インクルーシブの先端」と言っていい。

その立役者は、日本で初めてパラリンピック殿堂入りした、現・スポーツ庁長官・河合純一氏であり、昨年55歳で亡くなった金メダリストの成田真由美さんだった。

彼らのバトンは、鈴木孝幸、木村敬一らを経てまさにこれから若いパラスイマーに受け継がれようとしている。横浜国際プールにとっての「聖地」とは、このようなオリ・パラ連携のインクルーシブスポーツが水泳から生まれようとしている、そういうことなのだ。

杭州2022から、パリ2024、シンガポール2025、そして2026年のパンパシフィックへ。

選手たちが積み重ねてきた経験は、10月の愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会、さらにロサンゼルス2028へと続いていく。

その途中にある横浜での3日間。

世界記録だけではない。一人ひとりが自らの記録に挑み、その先の舞台へ進もうとする泳ぎを多くの人々と共に見届けたい。

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