公開: 2026年10月31日 at 22時36分 — 更新: 2026年10月31日 at 23時28分

【水泳】ネパールのパラスイマー、初めての決勝へ。日本での挑戦がつないだアジアパラ

知り・知らせるポイントを100文字で

アジアパラ水泳で、ネパールの男女2人が初めて決勝に進んだ。メダルには届かなくても、日本のプールで経験を積んだ先に開けた舞台である。「参加するだけ」から競い合う国へ。その一歩が、次の世代への道をひらく。

愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会の水泳競技で、ネパールの男女2選手が決勝の舞台に立った。

GHARTI Harka Man(以下、ガルティ)は男子50m自由形S5と50mバタフライS5の2種目で決勝に進み、KADAYAT Jenisha(以下、カダヤト)は女子50m自由形S6で自身初の決勝を泳いだ。

メダルには届かなかったが、ネパールのパラ水泳にとって初めてとなるアジアパラの決勝進出だった。その背景には、日本での国際大会への挑戦と、限られた練習環境のなかで競技力を高めてきた選手たちの歩みがある。

会場は名古屋市総合体育館のレインボープール。

決勝進出を果たしたネパールのパラ水泳チーム。後列左からSubha Shresthaコーチ、ネパールパラ水泳協会のSaroj Shrestha会長。前列はKADAYAT Jenisha、右がGHARTI Harka Man=名古屋市総合体育館(レインボープール)前 撮影:中村 Manto 真人

田中映伍と同じ両腕のないスイマー、決勝でタイムを縮める

ガルティは21歳。10年前、故郷の西部バグルン郡にある水力発電所の近くで感電事故に遭い、両腕を失った。2020年に競泳を始め、脚と体幹の力だけで泳ぐS5クラスのスイマーとなった。アジアパラ前、AFPの取材に応え「メダルは希望ではなく、目標。そのためにできることのすべてを注いでいる」と語った。

男子50mバタフライS5決勝を前にスタートを待つ選手たち。左がGHARTI Harka Man、中央は3位に入った田中映伍=10月20日、名古屋市総合体育館(レインボープール) 撮影:秋冨哲生

大会初日(10月19日)の男子50m自由形S5は予選1組を4着37.94で泳ぎ決勝に進出。夜の決勝では37.32までタイムを縮め8位となった。翌日(20日)の50mバタフライS5では予選40.38から決勝38.44と大幅に伸ばし6位となった。いずれの種目も、優勝はGUO Jincheng(中国)、日本の田中映伍が3位に入ったレースだった。

レースでの泳ぎについて、「技術や体のアライメントのことは考えない。とにかく強く、速く。スピードのために、ひたすら強くキックするだけだ」と話す。指導するSubha Shresthaコーチは「彼は両手がないが、脚はとても力強い」と語る。高校を終えたばかりの彼は、足の指でパソコンを操り、将来はコンピューターサイエンスを学ぶつもりだという。

ネパールのパラ水泳選手がアジアパラの決勝を泳ぐのはガルティが初めてだった。その起点となったのは日本のプールでの大会だ。ネパールの水泳選手として初めてWPS公認ワールドシリーズ2025富士・静岡に挑んだ。2025年の富士・静岡大会で、ガルティはクラス分けを受け国際大会初出場ながら自己ベストを更新し、アジアパラの出場標準記録を突破した。翌2026年も静岡で開かれた同シリーズに出場し、2年続けて日本のプールで経験を積んで名古屋にたどり着いた。

大会前にはAFP通信が「His feet are his pillars(足が彼の柱)」と題した特集を配信し、カトマンズの25mプールで練習を重ねる姿が世界に伝えられていた。

「強い選手たちと競い、多くを学んだ」——初の決勝を泳いだ

カダヤトは29歳。ガルティと同じカトマンズのチームで泳ぎ込んできた。
大会最終日(10月23日)に行われた女子50m自由形S6、予選2組を経て進んだ決勝では1:06.05で7位だった。優勝はこのクラスの第一人者JIANG Yuyan(中国)。タイム差は大きかったが、ネパールの女子パラスイマーがこの舞台の決勝で泳ぐのは初めてのことだった。

女子50m自由形S6予選を終え、自身初の決勝進出を決めたKADAYAT Jenisha=10月23日、名古屋市総合体育館(レインボープール)撮影:中村 Manto 真人

レースを終えたカダヤトは、インタビューに母国語でこう語った。
「この大会は私にとって素晴らしい経験になりました。強い選手たちと競い合うなかで、多くを学ぶことができました。もっと懸命に練習しようという力をもらいました。次の大会に向けて準備していきます」

「参加するだけ」からの脱却——ネパール選手団の現在地

開会式でネパール選手団の旗手を務めたのは、パラテコンドーのGOVERDHAN Palesha。杭州2022(2023年開催)でネパール初のアジアパラメダルを、パリ2024で同国初のパラリンピックメダルをもたらした23歳だ。

レースを終え、プールサイドに上がったKADAYAT Jenisha。そっと車いすが寄せられる=10月23日、名古屋市総合体育館(レインボープール) 撮影:中村 Manto 真人

「ネパールではよく、私たちは参加するだけだと言われる。だがガルティと協会は、健常の水泳選手も成し遂げていないことを、パラ水泳で成し遂げることを夢見ている」。ネパールパラ水泳協会(NPSAN)のSaroj Shrestha会長は大会前、AFPの取材にそう答えていた。「そもそも練習環境自体が整っていない」国(2025年、パラフォトの取材に)から、GOVERDHANの成功に触発された若いパラアスリートたちが国際舞台に挑み始めている。今大会の水泳には2選手が出場した。

大会後、NPSANは公式SNSで「このレベルでの決勝進出は、ネパールパラ水泳にとって大きな前進。これは始まりに過ぎない」と発信した。メダルにはまだ届かない。それでも、「参加するだけ」と言われてきた国のスイマーたちが、アジアのトップが集う決勝に立った。その事実が、次の世代の出発点になる。

<参考>
・リザルトはこちら
 D1(19日)男子50m自由形 Final
 D2(20日)男子50mバタフライS5 Final
 D4(23日)女子50m自由形S6 Final

・公式ページはこちら

<Facebookアルバム>
D1 予選;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1585757093590827&type=3
D1 決勝;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1586463560186847&type=3
D2 予選;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1586825180150685&type=3
D2 決勝;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1587888673377669&type=3
D4 予選;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1589988093167727&type=3
D4 決勝;https://www.facebook.com/media/set/?set=a.1590587413107795&type=3

この記事にコメントを送る

記事の感想は info@paraphoto.org 宛にメールでお寄せください。

→ 記事の訂正はこちら(メールソフトが開きます)