新春の舞台、知的・身体・デフスイマーらが集う。芹沢が2種目で日本新!

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障害者の水泳競技は施設の確保が難しく複数の障害の競技団体が1つの大会を共有している。選手や関係者が互いを知りインクルーシブな競技運営のスキルと交流を深める貴重な機会となっている一方で、世界の大舞台で活躍する選手たちを支える競技環境への理解が求められる状況と言える。新春の大会を訪ねた。

パリ2024パラリンピックから4ヶ月後の1月13日、千葉県国際総合水泳場でWPS(World Para Swimming)公認「第8回日本知的障害者選手権新春水泳競技大会」が開催された。この大会には、全国から障害のあるスイマー371人が出場した。(内訳:知的障害308人、ダウン症50人、身体障害5人、聴覚障害8人)

横浜・神奈川をホームとする宮前ドルフィンは、混合メドレー4×50mで優勝、混合フリー4×50mでは2位。左から、岩田章史、上田真義、林田泰河、芹澤美希香 写真・秋冨哲生

芹澤が日本新記録を2種目で達成!

女子100m平泳ぎS14のアジア記録保持者であり、国際大会経験も豊富な芹澤美希香(宮前ドルフィン)が、女子50m背泳ぎ(33.12)と50m平泳ぎ(35.55)の2種目で日本記録を更新、好調ぶりを見せ、その安定した競技力で会場を沸かせた。

芹澤美希香(宮前ドルフィン)女子50m背泳ぎで日本新記録(33.12) 写真・秋冨哲生

山口、復活の泳ぎで大会新記録を更新

男子100m平泳ぎの世界記録保持者である山口尚秀(四国ガス)は、パリ大会直前に負った足の小指の負傷で本番では銅メダルに終わったが、今大会では男子50m平泳ぎで大会新記録(29.16)をマーク。4年後のロサンゼルス2028へ向け、不撓不屈の成長が世界から注目されているところだ。

男子50m平泳ぎを泳ぐ山口尚秀(四国ガス)は大会新記録(29.16)を更新した 写真・秋冨哲生

パラリンピック水泳ファンにとって知的障害クラスの日本人の活躍は大きな楽しみだ。特に男子100m平泳ぎでは、ロンドン2012パラリンピックで田中康大が世界新記録(1:06.69)をマークして以来、長い注目が続く種目である。現在の世界記録はパリでも破られなかった山口の1:02.75である。

松田と村上が200mバタフライで接戦

100mと200mのバタフライS14で世界記録をマークした経験のある松田天空とパリ代表の村上舜也の熱戦に見応えがあった。村上が序盤からリードする展開だったが、松田がラストスパートで追い上げ、2:09.07で逆転優勝。村上も2:10.11で2位となり、両者とも大会記録を更新した。

松田は試合後、「半年ほど試合がなかったので感覚が戻っていなかったが、自分の強みに集中した」と語り、次は再び世界記録の更新を目指す意欲を見せた。

男子200mバタフライS14で競い合う松田天空(奥・1位)と村上舜也(手前・2位)は共に大会新記録を更新した。二人は同じNECグリーンスイミング所属で競い合う 写真・秋冨哲生

ダウン症スイマー森下、粘り強い泳ぎで大会新記録

ダウン症の森下綾子は女子50mバタフライで44.07の大会新記録を樹立した。森下は7歳から健康のために水泳を始め、現在ではダウン症クラスの200mバタフライで世界記録を保持している。彼女は「後半の粘りが強み。次は100mバタフライでベストタイム(1:28)を出したい」と目標を語った。

200mバタフライを泳ぐ森下綾子(ダウン症) 写真・秋冨哲生

ダウン症は、WPSではS14(知的障害)に分類されるが、2021年の全国大会で「ダウン症」クラスが設けられた。ダウン症は多くの場合、知的障害と身体的な障害を伴い、知的障害のみの選手に比べ競技力が劣るためパラリンピックでは不利だが、国内でクラスが設けられたことでVirtusグローバルゲームズやダウン症の世界大会など国際大会に向けた強化が進んだ。

デフリンピックへ吉田琉那

いよいよ11月15日から開催される東京デフリンピックを目指す吉田琉那(日本福祉大学)が女子100mバタフライを1:15.95で泳ぎ、調整の成果を見せた。

女子100mバタフライを泳ぐ吉田琉那(日本福祉大学)はデフリンピック日本代表を目指している 写真・秋冨哲生

100mバタフライをメインとする吉田は2023年世界デフ水泳大会に出場し400m個人メドレー6位入賞、100mバタフライ8位入賞。2022年カシアス・ド・スル(ブラジル)でのデフリンピックは代表入りを逃したが、バタフライで先行する25歳の齊藤京香を目標に見据えている。

新たなスタートラインへ

パラ水泳の2025年が幕を開けた。今年4月には静岡で日本初のWPSワールドパラシリーズが予定されており、8月にはバンコクで知的障害者のVirtusワールドゲームズ、9月にはシンガポールでIPC世界選手権と、重要な大会が続く。さらに、愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会を経て、ロサンゼルス2028パラリンピックを目指すアスリートたちの挑戦が本格化していく。

(写真取材・秋冨哲生 校正・そうとめよしえ)

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