2026年2月16日、長野県・菅平高原パインビークスキー場。ミラノ・コルティナ2026パラリンピックの最終日を飾る種目「回転(スラローム)」。その前哨戦となるジャパンパラアルペンスキー競技大会2日目は、初日の春のような陽気から一転し、気温2度からマイナス6度という厳しい冷え込みの中、霧のち晴れというコンディションで行われた。

男子座位(シッティング)クラスでは、初日の大回転(GS)を制した森井大輝(トヨタ自動車)が、2日目も鈴木猛史(カヤバ)との激戦を制し、2冠を達成した。
今回の菅平・大松山(オオマツ)グランプリコースは、本番会場となるイタリア・コルティナの「トファーネ(オリンピック女子アルペンコース)」と特性が似ているとされる「緩斜面」が特徴である。スピードを殺さずに滑り切れるかどうかが勝敗を左右するこの斜面で、トップ選手たちは本番を見据えた高度な技術的検証を繰り広げた。

また、代表選考の明暗が分かれた立位クラスの現状や、パラリンピック種目以外で世界と戦う選手たちの姿も浮かび上がり、日本パラスキー界の現在地を示す一日となった。
頂上決戦と「トファーネ」への解
男子座位は、まさに世界最高水準のデッドヒートとなった。
1本目は鈴木が44秒97で首位に立ち、森井が46秒13で追走。2本目では森井が44秒59の好タイムを記録し逆転した。合計タイム差は、わずか0秒11であった。

勝敗を分けたのは、緩斜面における「減速要素の徹底排除」である。
森井のアウトリガー(腕に装着するストック代わりのスキー器具)には、新たなパーツが装着されていた。バイク用ウインカー部品を流用した即席のガードである。
「スウェーデンの女子選手が使っているのを見て、これならいけると思った」

通常、回転ではポールを体や腕でなぎ倒しながら最短ラインを通るが、緩斜面ではその衝撃すら減速要因となる。森井はアウトリガーのグリップ付近にガードを装着し、ポールの内側を巧みにさばくことで衝撃を回避し、極限までラインを攻める新たな滑走スタイルを導入した。
海外選手の工夫を即座に取り入れ、市販部品で試行錯誤する。その貪欲な姿勢が、0.11秒の勝利を呼び込んだ。
一方の鈴木も、日本の技術力を結集した装備で挑んでいた。カヤバと共同開発し、完成させた新型チェアスキーである。鈴木の特性やコース状況に合わせオーダーメイドの製品開発を行っている。

「重心が自分の中心に戻ってくる感覚がある。バランスが良く、重さを感じない」
重心を中央に集中させる「マスの集中化」により操作性を高めた設計である。開発には「国産チェアスキーを衰退させてはならない」というものづくりの技術者の危機感が込められている。
「緩斜面でスピードを殺さない」ことが勝負の鍵となるミラノ・コルティナの最終日。本大会を想定した森井と鈴木の攻防は、極めて実戦的なシミュレーションとなった。
立位チームの現在地 ―― 選考の明暗と構造課題
男子立位クラスでは、パラリンピック代表に選出された小池岳太(JTBコミュニケーションデザイン)が優勝した。
「命がけで滑るつもりで臨んだ」

小池はそう語り、課題としていた「外足への安定した荷重」に手応えを示した。
一方で、代表選考から漏れた高橋幸平(コムニコ)の姿もあった。
「得意なイタリアのコースで、得意のスラロームに出場したかった」
悔しさをにじませる高橋の背景には、国際レベルの急激な底上げと、日本立位チームが抱える構造的課題がある。
トリノパラリンピック銀メダリストのOB・東海将彦氏は、YouTubeでレースを視聴し、次のように語る。
「厳しく言えば、国内でポイントを取りやすいレースで得意種目を落としたのは痛い。ただ、活動費の使い方やレース選択の戦略にも、差があったと思う。高橋選手がこれからどう気持ちを切り替えて4年間過ごすのか、楽しみに応援しています」と、エールを送る。
また、高橋のLW9-2クラス(上・下肢に障害があり、下肢は軽度)では、海外勢の成長が著しく、日本はその変化に十分対応しきれていないと指摘。
「かつて格下だった選手に追い抜かれている。なぜ彼らは伸び、自分たちは伸び悩んだのか。その検証と改善が十分になされないまま来てしまった」
選手個人の努力に依存する体制から、組織的な分析・強化体制への転換が求められている。
デフ陸上の王者・村田悠佑も世界を目指す
ジャパンパラ大会の特徴は、身体・視覚障害に限らず、デフ(聴覚障害)やID(知的障害)の選手も同じ舞台で競う点にある。この「カテゴリーの交錯」は、日本独自の競技文化ともいえる。
デフカテゴリーで優勝した村田悠佑(東京都)のタイムは1分36秒93。パラリンピック日本代表の小池(1分41秒59)を大きく上回った。
村田は、昨年12月に行われた東京デフリンピック(陸上)金メダリストであり、2024年トルコ冬季デフリンピック(アルペンスキー)銀メダリストでもある、「二刀流」のアスリートだ。

「もちろん、スキーが一番好きです」
そう即答する。
「聞こえる選手やパラ選手とも戦える。この大会が好きです」
2027年オーストリア大会を見据え、すでに現地と同条件での練習を重ねてきた。「世界一」を奪還するという強い意志は、オリンピアンやパラリンピアンと何ら変わらない。
ミラノ・コルティナと、その先へ
2日間の激闘を終え、森井、鈴木、小池ら日本代表選手は、イタリア・コルティナの「緩く、しかしタフな斜面」へと向かう。菅平で得た手応えと装備開発の成果は、世界と戦うための重要な武器となる。

代表から漏れた選手や、デフ・IDのアスリートたち、パラリンピック、デフリンピックなどの枠外で挑戦を続ける選手たちにもそれぞれの「世界一」や「目標」を見据えている。
カテゴリーを越えて競い合った菅平の2日間は、ミラノ・コルティナへの高い可能性とともに、なお残る競技環境の課題の双方を鮮明に映し出した。
2日目の競技結果
回転(SL)
■男子
(立位)
1位 小池 岳太(株式会社JTBコミュニケーションデザイン、LW6/8-1) 1分41秒59
(1st RUN:1位 52秒17/2nd RUN:1位 49秒42)
2位 宮田 一也(LW6/8-1) 2分21秒56
(1st RUN:2位 1分11秒84/2nd RUN:2位 1分09秒72)
(座位)
1位 森井 大輝(トヨタ自動車株式会社、LW11) 1分30秒72
(1st RUN:2位 46秒13/2nd RUN:1位 44秒59)
2位 鈴木 猛史(カヤバ株式会社、LW12-2) 1分30秒83
(1st RUN:1位 44秒97/2nd RUN:2位 45秒86)
3位 梅坪 優也(Sky株式会社、LW12-1) 2分02秒33
(1st RUN:3位 1分02秒63/2nd RUN:3位 59秒70)
(ID)
1位 金澤 碧詩 1分53秒72
(1st RUN:1位 56秒93/2nd RUN:3位 56秒79)
2位 平野井 渉(株式会社ローソンウィル) 1分56秒44
(1st RUN:2位 59秒95/2nd RUN:1位 56秒49)
3位 三浦 良太(株式会社リキ電業) 1分58秒40
(1st RUN:4位 1分01秒74/2nd RUN:2位 56秒66)
(聴覚障害)
1位 村田 悠佑(東京都) 1分36秒93
(1st RUN:1位 49秒97/2nd RUN:1位 46秒96)
2位 奥脇 恭司(東京都) 1分50秒78
(1st RUN:2位 56秒55/2nd RUN:2位 54秒23)
3位 岡田 優人(東京都) 1分52秒29
(1st RUN:3位 57秒49/2nd RUN:3位 54秒80)
■女子
(立位)
1位 本堂 杏実(株式会社コーセー、LW6/8-2) 1分47秒49
(1st RUN:1位 54秒41/2nd RUN:1位 53秒08)
(ID)
1位 馬場 圭美(株式会社ProVision) 2分21秒52
(1st RUN:1位 1分13秒35/2nd RUN:1位 1分08秒17)
(聴覚障害)
1位 田苗 優希(東京都) 1分42秒27
(1st RUN:1位 52秒00/2nd RUN:1位 50秒27)






