2025年6月29日、横浜国際プール(横浜市都筑区)で「第28回日本知的障害者選手権水泳競技大会」が開催され、身体・知的・聴覚に障害のあるスイマー413名が熱戦を繰り広げ、世界新1、アジア新2、日本新10を含む数多くの記録が樹立された。
大会は、3つの国際大会ーー8月のVirtus(知的障害)グローバルゲームズ(タイ)、9月のIPC世界パラ水泳選手権(シンガポール)、11月の東京デフリンピックーーの日本代表選手を決める最終選考レースを兼ねていた。知的障害のカテゴリーでは、泳力に違いのあるダウン症クラスも儲けられていた。
日本のパラスイマーは今、世界でメダルを争う存在となった。だが国内の環境は依然課題が多い。横浜国際プールは開業当初から「障害者ウェルカム」を掲げ、市民に開かれたインクルーシブ・スポーツの最先端を築いてきた。
世界で活躍するアスリートたちの声
山口尚秀
男子100m平泳ぎS14(知的障害)の世界記録保持者、山口尚秀(四国ガス)は、8月(タイ)タイ、シンガポール2大会の代表として選考された。「このプールは泳ぎやすい。環境も整っている。今日ここで泳げたことは貴重な機会だった」と語った。

山口は今大会でも1分02秒82の好タイムで大会新記録を更新している。「こういう大きなプールがあると、モチベーションも高まります。地元・愛媛をはじめとして、全国各地にこの規模のプールがもっとできてほしいと感じます。横浜国際プールのような施設が残ってくれると嬉しいです」と話した。
茨隆太郎
今秋の東京デフリンピック日本代表に内定した茨隆太郎(SMBC日興証券)は3種目で選考タイムを突破した。「横浜国際プールではいつも自己ベストが出せる印象がある。普段は神奈川の東海大学で練習しているのですが、同じ神奈川の水という共通点もあるのかもしれない」と語った。

プールの廃止計画については「残念ですね。神奈川で50メートルプールがある場所は、ここ(横浜国際プール)と、相模原、平塚の3か所くらいです。相模原や平塚の会場は観客席の数が少なく、大会を開くには限界があります。横浜国際プールは国際大会も開催できる会場ですし、もしなくなってしまえば、神奈川県内の小中学生が大会に出場する機会も減ってしまうと思います。だからこそ、こういった会場は、ぜひ存続してほしいと願っています」と手話で力を込めた。
前田恵麻
初の世界選手権出場が決まったのは、18歳・左上腕欠損の前田恵麻(福井工業大学)である。得意種目は100m背泳ぎ。「今日のレースは調整せずトレーニングの一環として臨みました。正直、もう少し出るかと思っていたけれど、すごく泳ぎやすくて楽しく泳げました。最近は個人メドレーが伸びていて、平泳ぎでも記録を狙いましたが届かなかった」と現状を語る。

練習は地元の金井学園スイムクラブで健常者と一緒に泳いでいる。「世界と戦うには、まだまだギャップが大きいです、その差を4年かけてどう埋めていくか。まず自分の目で世界を見て学びたい」と意気込む。
「みんなに応援される、愛される選手になりたいです」同じ障害の先輩でリオパラリンピック日本代表の一ノ瀬メイが憧れの先輩アスリートだという。
荻原虎太郎
そして今回100m自由形S8で日本記録(1:00.66)を更新し、2度目の世界選手権出場を決めたのが荻原虎太郎(あいおいニッセイ同和損保)である。
「体を素早く動かす感覚を意識してトレーニングを積んできたのが、うまくハマった」と大会を振り返る。代表選考がかかる100m自由形とバタフライの2種目に集中し、あえて100m背泳S8ぎは見送った。
「本番では100m背泳ぎと200m個人メドレーで表彰台を狙っています。特に背泳ぎではメダルが欲しい」と目標は明確だ。

2025年4月に社会人となり、順天堂大学での練習を継続しながら新たなスタートを切った荻原。「お金をもらって水泳ができるのが夢だった。いま、夢が叶っています」と語る表情は、自信と喜びに満ちていた。
「憧れの先輩」を追って泳ぐ小学生スイマー
男子400m自由形S6に挑む小学6年生の山田龍芽(宮前ドルフィン/横浜市立上白根小学校)がいた。「今日は6分を切れなかったけれど、うれしい部分もある」と語る。4月、初めての国際大会(静岡)に出場した山田は、400mで自己ベストを更新、今日はさらにタイムを縮めることができた(6分00.21秒)。

下半身にまひのある山田だが、憧れは片足の400mスイマー・高校生の川渕大耀。川渕を目標に練習を重ねており、今日も川渕と同じレースで泳げた。次の目標は「5分45秒」。挑戦は横浜からアジアパラ(2026名古屋)、LAパラリンピック(2028年)へと続いている。
「最先端」を次のフェイズへ──横浜インクルーシブ水泳大会
7月12日・13日、「第4回横浜インクルーシブ水泳競技大会」が開催される。開業からパラ、デフ、知的障害などの選手が同じ大会で競う「共生型の競技環境」が育まれてきたこのプールでの近年の取り組みは、パラスイマーと健常の競技者がともに泳ぐことができる大会。現場の運営スタッフらが企画した、スポーツによる「共生社会」をさらに具体的にすすめるこの場所ならではの取り組みである。
大会は、あらゆる選手たちが公認記録に挑み、子どもたちにとっても先輩アスリートや競技と出会い、挑戦することを通じて「生きる喜び」を育む場となっている。

障害の有無や世代を超えて互いを見つめ合えるこの場所の光景は、競技会を超えて、都市の中で「共に生きるためのインフラ」となっている。
<参考>
・東京デフリンピック水泳日本代表・過去最多15名が内定!(パラフォト記事)
・経験と実力が交差する21人──シンガポール2025世界パラ水泳 日本代表選手が決定!(パラフォト記事)
・横浜国際プール再整備事業計画について(横浜市HP)






